2017年11月28日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [122]『日本の人事を科学する―因果推論に基づくデータ活用』 

 (大湾秀雄 著 日本経済新聞出版社 2017年6月)

 

 本書は、人事・人事企画に携わる人や、経営戦略に関わる経営コンサルタント、人事制度の設計・改善に関心のある実務家・学習者などに向けて、人事データを分析し、その結果を解釈するための方法と実例を紹介した本です。

 まず第1章で、人事部が抱える問題として、人事データが十分に活用されていないため、PDCAサイクルがうまく回っていないことを指摘しています。著者は、人事データを活用するためにすべきこととして、
 ①人事データをすべてデジタル情報として保存する
 ②人事データを一つのシステムの中で一元管理する
 ③統計リテラシーの高い人間を1人くらい人事に配置する
 ④統計ソフトを一つ購入する
――という四つを挙げています。また、そもそも、人事データで課題を解決するには、問題意識がなければならず、勝負の分かれ目は、問題意識を持ち、問題点に気づけるかどうかにあるとしています。

 第2章では、統計的センスを身に付けるためのポイントとして、視覚的に捉えることの重要性を説くとともに、データの相関と因果を探る上で、回帰分析がデータ活用の基本となるとしています。因果関係を正しく見いだすためには、回帰分析などを正しく使い、外的環境や影響を与える他の要素をある程度コントロールしていく必要があるとしています。また、グラフを描く技術や統計ツールを身に付け、気づきをエビデンスに変えていく力こそが統計的センスであり、今後データの利用が各方面で高まるにつれ、こうした統計的センスはさらに必要な能力となるとしています。

 第3章から第8章では、女性活躍推進の効果をどう測るか、働き方改革の効果をどう測るか、採用施策をどう評価するか、優秀な社員の定着率を上げるためには何が必要か、中間管理職の貢献をどう測定するか、高齢化に対応した長期施策をどう考えるか、という六つのテーマを取り上げ、実際にデータ分析の手法を用いて、何が課題であり、その課題の解決に向けてどういった施策が考えられるかを示唆しています。

 最後の第9章では、人事におけるデータ活用の今後の展開として、人事機能の分権化やサクセッション・プランの導入などによってその重要性は増し、さらには、メール交信や社内SNSなど社員間のネットワーク情報の活用が進むことも考えられるとしています。一方で、企業が知り得た従業員の個人情報を、どこまで自由に利用してよいのかという倫理的な問題もあるとしています。

 データ分析に関する解説で、数学的要素については、必要な箇所に2ページのテクニカルノートを含めることで、統計学、計量経済学の手法に軽く触れています。また、さらに学びたい読者のために、第2章から第8章の各章末で関連する参考図書を紹介し、その内容を説明するなどしています。

 人事データ活用の重要性と、そのために必要な統計的センスとは何かを説いた本ですが、データ分析は「習うより慣れろ」で、まずは興味を持ってデータに触れることが第一であるとも言っています。その意味では、第3章から第8章のテーマごとの"実践編"については、読者の関心が強いものから順に読んでいってもよいかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年7月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー