オラクルで長年人材育成に携わった著者は、前著『メンバーの才能を開花させる技法』(2015年/海と月社)では、リーダーの二つの類型として「消耗型リーダー」と「増幅型リーダー」があり、消耗型リーダーは、自らの知性に溺れ、組織にとって大切な知性と能力を損ない、増幅型リーダーは、メンバーの知識を引き出すことで、組織の中に集合知を築くとしていました。
本書では、初経験の課題に取り組むルーキーに着目し、ルーキーの潜在力を信じ、彼らをもっと活用することを説いています。さらには「だれもが永遠にルーキーでありつづけられる」として、自分自身もマンネリと決別し、ルーキーならではの強み(ルーキー・スマート)を身に付けることを勧めています。そして、これまでの経験にルーキーのパワーが加われば、個人としても組織としても強みを発揮できるようになるとしています。
第1部/第1章では、調査から分かったこととして、ルーキーは目覚ましい成果を上げることができ、イノベーションなどではベテランを凌駕(りょうが)することも多いが、そうしたルーキーの思考・行動にはパターンがあるとしています。著者はそれを「ルーキー・スマート」と名づけ、ルーキー・スマートには、「バックパッカー」「狩猟採集民」「ファイアウォーカー」「開拓者」の四つのモードがあり、同じ人間が局面ごとにさまざまなモードに入るとしています。そして、第2章から第5章にかけて、各モードとその思考パターンを解説しています。
「バックパッカー」とは、重荷がなく、失うものがない者のことを指し、ベテランが"守り"思考なのに対し、ルーキーは無制約の自由な思考で動けるとしています。「狩猟採集民」とは、知識や専門技能が未熟である分、周りの世界を理解しようと努め、導きを求めて他の人の力を借りようとする特性を指しています。「ファイアウォーカー」とは、あたかも初心者の火渡りのごとく、慎重に、かつ素早く行動する特性を指しています。「開拓者」は、地図にない土地に乗り出していく者を指し、"定住者"であるベテランと異なり、未知の世界へ乗り出すためにハングリーで精力的に行動する特性を指しています。
第2部/第6章では、「永遠のルーキー」であるための資質として、好奇心、謙虚さ、遊び心、計画性の四つを掲げています。第7章では、ルーキー・スマートは若者や未経験者だけのものではなく、どんなに経験や実績が豊富な人でも自分を再生させ、ルーキーへ回帰できるとし、それを実現するための戦略を示しています。
第3部/第8章では、リーダーがルーキーを活かすための方法として、①方向性を示した上で自由を与える、②建設的な「ミニ試練」を与える、③安全ネットつきの綱渡りをさせる、の三つを挙げています。また、ルーキーとベテランの効果的な組み合わせ方法や、チームや組織にルーキーらしさを取り戻す方法についても述べています。
ルーキーに着目した本ですが、著者の専門はリーダーシップ研究であり、本書におけるルーキー・スマートも年齢的な枠を超えた特性的なものであって、リーダーが柔軟な思考や挑戦者の精神を失わないためにはどうすればよいかを説いた本でもあります。ルーキー・スマートはリーダーにこそ求められるという、ユニークな視座を提供していると思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年6月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー