2017年09月11日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [118]『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?―職場での成長を放棄する若者たち』

(豊田義博 著 PHPビジネス新書 2017年5月)

 

 本書の構成は、第1章から第3章までが若手社員の現状およびその背景の分析、ならびにその要因となる課題の抽出であり、第4章がマネジャーによる課題解決の方向性と施策、第5章が若手自身による課題解決の方向性と施策となっています。

 第1章では、現代の若手社員は職場においてどのような状況なのか、現状を分析しています。その行動特性・思考特性は、真面目で優秀、自己実現志向、社会志向を持ち、自分の時間を大切にし、フラットなヨコのネットワークを駆使する自己充実型であるが、こんなに前向きな若手社員が、一方では、報告や相談ができず、個性や欲求がなく、打たれ弱く、リスク回避志向が高く、待ちの姿勢であるともしています。

 第2章では、現代の若手社員がそのような行動特性・思考特性を持つようになった背景を、彼らが生きてきた社会状況、教育現場の環境などの変化に着目して分析しています。その節目は1991年と2004年にあり、今の若手社員は、詰め込み教育によって高度なインプット能力を携えた"91年前"世代とも、キャリアアップ志向を携えた"04年前"世代とも異なる存在であり、今の会社での仕事を生き生きとしている、という状況ではないとしています。

 第3章では、若手の成長を阻み、彼らが会社で生き生きと仕事できないでいる要因を探っています。業務の高度化や細分化などがもたらした仕事上の「タスク完結性」「自律性」「フィードバック」の低さが、彼らに仕事に対する違和感を抱かせ、モチベーションを下げていて、若手社員はいま「成長の危機」にあるとしています。

 第4章では、従来のOJTなどによる経験学習モデルが、環境の変化によって機能しなくなり、そうした「環境適応性」の揺らぎが経験学習を阻んでいるとしています。その上で、これに対するマネジャーの処方せんとして、環境適応性を引き出す「問いかけ」が効果的であるとしています。具体的には、彼・彼女はどのようにしてこの会社と出会い、どのような好感を持ち、どのようなことができると思い入社したのか、その時の彼・彼女の経験、気づき、思いを聞き出す「キャリアインタビュー」を行うことなどを提唱しています。

 第5章では、若手社員自身がどのような行動をとることで状況を打開できるか、周囲にどのような働きかけをすればよいかを説いています。まず、「天職探し」という考えを捨て、とにかく行動すること。「外に出る」「仲間を得る」「視野を拡大する」「目の前の仕事に対して事を起こす」という四つのポイントに沿って、社外での学習機会を活用したり、ボランティア活動によって当事者意識を育んだりすることなどを推奨しています。

 全体として、第1章から第3章までは、著者の前著『若手社員が育たない。』 (2015年/ちくま新書)からさらに体系的に整理された"現代若手社員像"の分析となっているように思いました。一方、第4章のマネジャーにとっての処方せんの部分も啓発的ではあるものの、例えばキャリアインタビューなどは、相互に信頼関係があることや、聞く側に相応の技量があることが一定の条件となるように思われました。むしろ第5章の若手社員に対する提言部分のほうが、若手に限らず、幅広い層にとって示唆的であるように思いました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年5月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー