本書によれば、これまで「全社一丸」を看板に掲げ、社員の勤勉さとチームワークを売り物にしてきた日本企業ですが、労働生産性や競争力の国際的地位は急落し、大企業では組織的不祥事が続発。女性が活躍できる社会の実現や「働き方改革」も十分に進んでおらず、ストレスや過労死が深刻な問題になりながら労働者の労働時間は減っていないのが、その現状であるとのことです。
そして、これらの諸問題に共通する「病根」は、個人が組織や集団から「分化」されていないことにあるとしています。ここでいう「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味しています。働き方改革、イノベーションの創出、組織不祥事の撲滅など、現在の日本企業が直面する重要課題の克服は、「分化」を実現できるか否かにかかっていると著者は言います。
第1章では、企業不祥事や長時間労働、パワハラ・セクハラなどの原因となっているもの、さらには「女性活躍推進」や「同一労働同一賃金」の壁となっているものは何かを考え、そこに個人の「未分化」の問題があることを、多くの事例を引き合いにしつつ指摘しています。
第2章では、日本企業が勝てなくなった原因は、日本的な共同体型組織が限界にきているためで、組織が「未分化」であるためモチベーションが抑制され、有能な人材は外部に流出するとしています。成果主義が失敗したのも、成果の責任を問うには個人の「分化」が必要なのに、未分化のままそれを取り入れたからだとしています。
第3章では、「分化」することのメリットとして、仕事が効率化し、「異質なチームワーク」からイノベーションが生まれるとともに、「集団無責任型」不祥事がなくなり、女性活躍の道も広がって、オフィス環境も改善され、オーダーメイドのキャリアが形成できることなどを挙げています。また、「絆」「つながり」を唱え続けて無理に求心力を高めるよりも、むしろ「分化」することでつながるとし、個人のレベルでも、仕事や職業生活を分化することで、「未分化」では得られなかった生きがいが得られるとしています。
第4章では、「分化も進めたいが統合も大事だ」というジレンマを克服するには、「行動」と「機能」を意識的に切り離して考える必要があり、行動を分化しながら機能として統合することで、企業業績も社員満足度も実際に上がる場合が多いとしています。
第5章では、今後はこれまでのタテの「階級」がヨコの「専門」に転換し、タテ方向の分化が勢いを失ってフラット化に転じる一方、ヨコ方向への分化が進んでいき、この流れははるか未来に向けて続くだろうとしています。
「分化」というコンセプトで、これだけ多くの問題について論じている点が、大胆かつユニークであると思いました。かつて日本企業の強みだった「まとまる力」が、いま社員一人ひとりの能力を引き出すことの妨げとなり、組織を不活性化させているとしており、必要なのは、まず組織や集団から個人を「引き離すこと」なのだという趣旨は、腑に落ちるように思います。個の力を十分に活かすには、これまでの働き方をドラスティックに変えなければならないことを示唆しており、啓発度の高い本であるといえます。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年4月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー