2017年07月18日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [113]『フィードバック入門―耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』

(中原 淳 著 PHPビジネス新書 2017年3月)

 

 本書では、上司から部下へのフィードバックについて、フィードバックとは「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術であり、コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、全く新しい部下育成法であるとしています。

 第1章では、マネジャーが置かれている部下育成が困難な現況を分析し、フィードバックこそ最強の部下育成方法であるとしています。フィードバックは、ティーチング的な【情報通知】(=たとえ耳の痛いことであっても、情報や結果を通知すること)と、コーチング的【立て直し】(=部下が自己の業績や行動を振り返り、行動計画を立てる支援を行うこと)から成るとしています。

 第2章はフィードバック技術の基本編であり、部下育成の基礎理論として「経験軸」と「ピープル軸」を挙げています。「経験軸」の考え方は、部下に適切な業務経験を与え、「ストレッチゾーン(挑戦空間)」の心理状態での勤務を促すことであり、「ピープル軸」の考え方は、「業務支援」「内省支援」「精神支援」を組み合わせた、"点ではなく面による育成"であるとしています。これらと、フィードバックの2要素との関係を、【情報通知】=経験軸+「業務支援」、【立て直し】=「内省支援」+「精神支援」という組み合わせで整理。さらに、フィードバック技術を、フィードバックのプロセス順に解説しています。

 第3章はフィードバック技術の実践編であり、「あなたは、相手としっかりと向き合っているか?」「あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?」などフィードバックにおける五つのチェックポイントと、フィードバック前には必ず「脳内予行演習」すること、フィードバックの内容も記録することなど、フィードバックの八つのコツを示しています。

 第4章では、すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプや、何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ、上から目線で返される「逆フィードバック」タイプなど、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がそれらにどのように対処すべきかを、Q&A形式で解説しています。

 第5章では、フィードバック力をつける二つのポイントとして、自分自身のフィードバックを客観的に観察することと、自分自身もフィードバックされる機会を持つことを挙げ、フィードバック力をつけるトレーニング方法や自分自身をフィードバックし続けるコツを紹介しています。

 前半部分はやや概念的ですが、後半になるほどマニュアル的になり、実践を意識した入門書になっています。全体としては、フィードバックの考え方やチェックポイントを、著者なりにその研究の成果に基づいてまとめたものであると言えます。

 さほど目新しいことが書かれているわけではないですが、一定のコンセプトの下に体系的に整理されているため、あらためて啓発される箇所が少なからずあったように思います。分かっていてもそれを実践するのが難しいのだと言いたくなるような箇所もありますが、それらが技術として習得できたならば、それはそれで十分に効果があると思われます。そうした意味では、自己啓発のつもりで読むのもよいのではないかと思います。

<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年3月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー