ドラッカーの名著『経営者の条件』を通じて、登場人物が自分たちの悩みを解決していく、ストーリー仕立ての入門ガイドブックです。以前にベストセラーとなった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(2009年/ダイヤモンド社)がドラッカーの『マネジメント-基本と原則[エッセンシャル版]』1冊に絞って引用していたのと同様、本書も『経営者の条件-ドラッカー名著集1』をいわば「底本」としています。
第1章では、研修会社のOLですでにベテランでありながら社長からガツンと叱られた夏子、広告会社の制作部門から営業部門に異動になったものの営業数字の未達に悩む柊介、保険会社を脱サラして念願のカフェ立ち上げのはずが仕事も家庭もパンク状態の徹の3人が登場。彼らがそれぞれ偶然に導かれるようにある人物が主催するドラッカーの読書会に集い、『経営者の条件』を読むことになります。そして、まず初回は、『経営者の条件』の目次を確認しています。『経営者の条件』の章立ては以下のとおりです。
・序 章 成果をあげるには
・第1章 成果をあげる能力は修得できる
・第2章 汝の時間を知れ
・第3章 どのような貢献ができるか
・第4章 人の強みを生かす
・第5章 最も重要なことに集中せよ
・第6章 意思決定とは何か
・第7章 成果をあげる意思決定とは
・終 章 成果をあげる能力を修得せよ
以下、第2章では、その『経営者の条件』の読書会を通して各人が、誰もが「知識労働者」であることを確認し、「汝の時間を知れ」「どのような貢献ができるか」といったドラッカーの言葉の意味を考えていきます。第3章では、「人の強みを生かす」「最も重要なことに集中せよ」という言葉の意味を、第4章では「意思決定とは何か」「成果をあげる意思決定」をするとはどういうことなのか、それらの意味を探っていきます。
同時並行で、登場人物たちが学んだことを自らの仕事などにどのように活かしていったかが描かれています。例えば夏子は、指示待ちOLから脱却し、自ら会社の危機に立ち向かうようになりますが、このあたりは「実践編」と言えます。ただし、1冊のテキストに基づく「読書会」が軸になっているため、話が拡散することなく、コンパクトでありながらも、押さえるべきポイントは押さえているように思いました。著者は、ドラッカー読書会ファシリテーターでもあるとのことで、このあたりはさすがだと思います。
『経営者の条件』は、ドラッカーの著者の中でも体系がすっきりしていて読みやすく、自己啓発度が高い一方で実践的でもあり、応用もしやすいほうではないかと思われますが、まだ読んでいない人は、このような手引書から入った後で原典に当たってみるのもよいでしょう。
中小企業の経営者で、社員にドラッカーの著書を読ませて感想文を書かせている人もいますが、大企業の場合だと、それぞれが自分の意思で自己研鑽せよということになるのかもしれません。ドラッカーをテーマにしたものに限らず、こうした「読書会」「勉強会」という形をとることで互いに刺激を受け、個々の研鑽がより深耕されることもあるのではないかと、本書を読んで感じました。『もしドラ』の"二番煎じ"ではなく、ドラッカーの読書会の主催者としての著者の経験が生かされたものとなっているように思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年1月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー