本書によれば、多くの企業で50代の非管理職層が年々増加していく中、ベテラン社員について「モチベーションが低い」「新たなスキル開発が進んでいない」「年下上司の言うことを聞かない」といった(これまでもあった)定番的な問題が、もはや放置しておけない状況になってきているとのことです。本書は、そうしたベテラン社員をどう活性化していくか、50歳目前から60歳以降も働き続ける人が元気で活躍する職場にするにはどうすればよいか――をテーマとしたものです。
まず序章において、そうした問題の背景や原因を分析し、ベテラン社員がイキイキと働くために必要なものとして、①やりがいのある仕事、②信頼できる上司、③職場の人間関係の三つを挙げています。そしてベテラン社員を活性化させる五つのマネジメント・ステップを掲げ、第1章から第5章で各ステップのポイントを解説しています。
第1章(ステップ1:土台をつくる)では、ベテラン社員一人ひとりが個性的な人生を歩んできたのであり、そうした相手を知るために「仕事年表」を作成してもらい、それを共有することで、相手の思いや真実を引き出すことができるとしています。
第2章(ステップ2:目標を設定する)では、いきなり課題を与えるとベテラン社員は逃げてしまうとして、目標設定の前に会議を通して組織の未来を考えてもらい、その上で目標を個別に考えてもらうことを推奨しています。また、自身のマネジメントについてベテラン社員がどう思っているかフィードバックを受けることができれば、まさに本物であるとしています。
第3章(ステップ3:心に火をつける)では、ベテラン社員の持つプライドを、自分の仕事を守るためのネガティブなプライドから、志を達成するためのものへとシフトさせることが肝要であり、自問自答を通してそのための気づきを促す「自己探求シート」というものを用いた面談を提唱しています。
第4章(ステップ4:達成に向け支援する)では、メンバーの能力を120%引き出すためには、メンバーに敬意を持ち、メンバーを「部下」という上下の関係ではなく、お互いの成長を支援できる「仲間」に進化させていくことで一体感をつくることが大切であるとしています。
第5章(ステップ5:フィードバックする)では、ベテラン社員は褒められたいと思ってはおらず、期待されたり、感謝されたりすることがその行動を変えるとして、対象者への感謝や期待を本人にフィードバックするための「フィードバックシート」というものを例示しています。また、巻末には、ベテラン社員の活性化に取り組み、成果を出している4社について、その取り組み例が紹介されています。
マネジャーや人事担当者とベテラン社員との間に仕事や働き方に対する共通の理解を育むことで、ベテラン社員は少し背中を押すだけでイキイキ動き出すようになるというのは、大変啓発的だと思いました。「仕事年表」「自己探求シート」などのツールが紹介されていて、やるべきことが「見える化」されているのも良かったように思います。ただし、あくまでもそれらはツールであって、マネジャーや人事担当者が本書に書かれていることを実践する際には、個々人に相応のヒューマンスキルが求められるようにも思いました。「ベテラン社員」問題が先送りされている企業の人事担当者にはお勧めです。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2016年11月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー