2016年12月07日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [104]『人事評価はもういらない―成果主義人事の限界』

 (松丘 啓司 著 ファーストプレス 2016年10月)

 

 本書によれば、成果主義の導入に伴い日本企業がアメリカ式の制度を輸入した際に、それまでアメリカ企業では年次評価と評価によるランク付けが行われていたため、日本の制度もそうしたものになったとのことです。こうした目標管理・評価のプロセスを、アメリカでは「パフォーマンスマネジメント」と呼び、本書では目標管理と評価制度をひとくくりにした意味で用いています。

 第1章では、今アメリカでは新たなパフォーマンスマネジメントのトレンドとして、年度目標設定の廃止、中間レビューの廃止、年次評価の廃止、期末フィードバックの廃止といった変化が見られ、そこには従来のパフォーマンスマネジメントではパフォーマンス向上につながらないとの考え方があるとしています。そして、パフォーマンスマネジメントの変革を行った企業では、人中心経営に舵を切ろうとしているとのことです。

 第2章では、そうした新たなパフォーマンスマネジメントについて、年次評価を止める理由を踏まえて、①リアルタイム、②未来指向、③個人起点、④強み重視、⑤コラボレーション促進の五つの基本原則を提示し、以下、個々の原則について、キーワードを用いながら詳しく解説しています。この部分が本書の中核に当たります。

 第3章では、日本企業における目標管理・評価制度について、現在の制度では、パフォーマンスマネジメントは ①形骸化、②業績偏重、③複雑化、といった問題を抱えているとしています。根本的な問題は「成果」の捉え方にあり、マネジャーが弱体化し、プロセス管理が成長意欲の阻害等の問題を生じさせている現状では、メンバー一人ひとりを動機づけ、個人とチームのパフォーマンス最大化を目指す「ピープルマネジメント」に軸足を移すことが求められるとしています。

 第4章では、ピープルマネジメントについて14の視点を挙げ、それらは、個人エンゲージメントを促す視点として、①個人の尊重、②成長意欲、③学習機会、④期待役割、⑤強みの発揮、⑥仕事への承認、⑦キャリアビジョンという7点を提示。チームエンゲージメントを促す視点としては、⑧心理的安全、⑨明確なゴール、⑩失敗からの学習、⑪相互理解、⑫目標の共有、⑬情報共有、⑭相互貢献の7点をそれぞれ示しています。

 著者によれば、本書はもともとピープルマネジメントを主題に執筆することを予定していて、アメリカ企業における年次評価廃止の流れは補足的な解説にとどめるつもりであったのが、調査してみてこの潮流は一時的な流行ではないと確信し、年次評価の廃止を主題にしたとのことです。日本企業が年次評価を止めてパフォーマンスマネジメントを変革する決断ができるかは未知数であるとしつつも、少なくとも検討を始める価値のあるテーマであるとしています。

 刺激的かつ啓発的な内容だと思いました。年次評価を止めることよりも、次に何をやるのかということのほうが大事なのでしょう。年度目標を廃止して、今度はリアルタイムの目標設定にするわけであり、同時に中間レビューや期末フィードバックはリアルタイムフィードバックに改めるわけであって、決して何もしなくともよいということではないので、勘違いしないようにしたいものです。全体として体系的によくまとまっていますが、概念的・抽象的なレベルにとどまっていて、実務感がやや希薄な印象も受けました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2016年10月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー