同著者の『君の働き方に未来はあるか?』(2014年/光文社新書)の後継書です。前著がこれから働き始める若者を対象にしていたのに対し、本書は主に、今まで頑張って働いてきたのになかなか幸福感を得られず悩んでいる人に向け、幸せに働くことの意味を考えてもらうために書かれたものとのことです。
第1章では、労働者が仕事において不幸になるのは、仕事の「内側」に入ることができず、仕事に隷属して主体性を発揮できないことに原因があるとし、仕事において主体性を発揮していくことが、幸福に働くポイントになるとしています。第2章では、他人の評価を気にして働くことが不幸につながるとしつつ、公正な評価を受けて働くことは自らが承認されるという満足をもたらし、幸福な働き方にもつながるため、公正な評価を行う良い会社を自ら探すことが重要だとしています。
第3章では、「いつ」「どこで」という面で会社からの拘束を受けないという意味での主体性を論じています。その際に重要となる理念が「ワーク・ライフ・バランス」であり、テレワークの普及は、WLBを実現しやすい社会をもたらすとしています。第4章では、目の前の仕事にエネルギーを吸い取られ、将来につながらない仕事をしてしまうのではダメで、そこで、政府が労働者の職業キャリアを保障するキャリア権が重要になるが、それは「基盤」にすぎず、その上にどのような幸福を築くかは、個々の労働者が主体的に追求しなければならないとしています。
第5章では、政府による幸福の実現にあまり期待しすぎてはならず、労働法にも限界があるとしています。第6章では、政府による幸福の実現は難しいとしても、これまでの雇用文化を変えて、社会で労働者が幸福になれる土壌を作ることは可能だとし、日本の休暇文化の貧困性を、法制度面と実態面から取り上げ、もっと休めるようにするための法改正と意識改革を提案しています。
第7章では、意識改革は、日本人の美徳とされてきた勤勉さの面でも行う必要があるとして、勤勉に働くことの意味を問い直し、主体性を損なうほどの過剰な勤勉性は避けるべきだとしています。第8章では、幸福な働き方の鍵は、一人ひとりの日常の仕事の中に創造性を追求し、そこに精神的な満足を見いだすことであるが、特に重要なのは、時間主権を回復することであるとしています。
結論として、幸福な働き方は、日常の仕事に創造性を追求して主体的に取り組むこと、かつ、そのために必要な転職力を身に付けるために主体的に行動すること、という二重の主体性をもって実現できるとしています。
労働法学者でありながらも労働法の限界を見極め、それでも、雇用文化や働く人の個々の意識改革は可能だとし、とりわけ仕事の中に創造性を追求し、精神的な満足を見いだす上で特に重要なのは、働く人が時間主権を回復することであるという導き方は、説得力があるように思いました。
ビジネスパーソンにとって働くということについて今一度考えてみるのによい啓発書であり、また随所に労働法学者の視点や法律に対する見解が織り込まれていることから、人事パーソンにもお薦めの本です。
<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります
※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2016年6月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー