2016年05月27日掲載

Point of view - 第63回 岡本純子 ―グローバルリーダーシップ育成は"コミュ力"から

グローバルリーダーシップ育成は"コミュ力"から

岡本純子  おかもと じゅんこ
株式会社グローコム 代表取締役社長
グローバルコミュニケーションストラテジスト

米NYで学んだコミュニケーションの最先端スキル・トレンドと科学的知見を体系化した独自の「コミュ学」を基に、日本企業のPR支援、リーダーシップ層へのコミュニケーション教育に力を注ぐ。約1000人の社長、企業幹部へのプレゼン・スピーチのコーチングやコンサルを手掛けたリーダーシップコミュニケーションの「草分け」。
読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションズコンサルタントを経て、株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士、米MIT(マサチューセッツ工科大学)比較メディア学科元客員研究員。日英対応。東洋経済オンライン、広報会議にレギュラー執筆中。
㈱グローコム ホームページ http://www.glocomm.co.jp/

 

 「グローバル」「リーダーシップ」。日本企業の人材育成のキーワードと言えば、この二つの言葉が思い浮かぶが、真の「グローバルリーダーシップ人材」は日本では残念ながら、まだまだ多いとは言えない。
 TOEFLランキングでは、アジア31カ国中26番目、スピーキングに至っては最下位という「英語力」に加え、世界レベルのMBAコースなどで「経営の帝王学」を受ける機会も少なく、「リーダーシップ」をアカデミックにも、実践的にも学ぶ場がほとんどない。

■「知識」よりも大切なもの

 最近では、○○○シンキングや××マネジメントなどといった小難しい理論を教える研修などを導入している企業などもあるようだが、そうした「知識」よりももっと大切なものがある。それは「コミュニケーション力」だ。
 プレゼン、スピーチ、商談、説得、ネゴシエーション、会話――ビジネスだけでなく日常生活においても「生きる力」の基本となる「コミュニケーション力(コミュ力)」だが、残念なことに、日本人は、ほとんどその本格的な「教育」を受ける機会がない。このコミュ力は、欧米では幼稚園の頃から徹底的に教え込まれるものだが、日本では「読み」「書き」は学んでも、「話す教育」を受けたことがある人はほとんどいない。
 全米上位のFORTUNE500にランクされる企業の採用担当者1400人が「最も重視するスキル」として掲げたのは「コミュニケーション」(LinkedIn, Oct. 2014)。全米の親が、子供たちに学ばせたいスキルのナンバー1として挙げたのは、「科学」や「数学」「論理性」「チームワーク」などではなく、「コミュニケーション」だった (Pew Research Center, Feb. 2015)。
 つまり、どんな知識や知見を持っていても、それを表現し、伝えられなければ何の意味もないということだ。日本人は「中身」つまり、コンテンツ作りについては高い技術力と精度を誇る。製品やサービスの優秀さは世界でも折り紙付きだ。しかし、その素晴らしさを伝える「デリバリー力」が圧倒的に欠けている。
 これは、英語力の問題ではない。むしろ、英語など片言でも、グローバルレベルのコミュ力さえあれば、国際舞台でも堂々としたプレゼンスは発揮できるのである。

■アクティングの3カ条とは

 筆者は日本人のこの本質的な「コミュ貧」脱却を目的に、エグゼクティブ向けにプレゼンやスピーチのコーチングを行っているが、強化の特効薬として目を付けたのが「アクティング」(演技・所作)の手法だ。アメリカ・ブロードウェーのアクティングスクールやボディーランゲージのスペシャリストの元で学んだ手法を、アメリカ人俳優らと組んで、実践的にお教えしている。
 そのエッセンスを3カ条としてご紹介しよう。
[1]殻を破れ
 プレゼンやスピーチで舞台に立つとき、大事なのは「その『場』を支配できるか」。まるでその人にだけスポットライトが当たっているような存在感を発揮できるか、ということだ。アメリカなどでは、(トランプなどを見ていただいても分かるだろう)自分を大きく見せるジェスチャーで存在感と力強さを示すことで、信頼感を勝ち取れると考えられている。翻って日本人は謙虚が美徳とされ、自分を大きく見せることに抵抗を感じる人が多い。人の目が気になり、「恥ずかしい」という意識から抜け出せず、演台から一歩も動かず、与えられた原稿を読み上げるだけ、という人もいる。しかし、グローバルの舞台では「殻」にこもっている限り、相手を印象付けるコミュニケーションは実現できない。
 決して、アメリカ人のように大げさなジェスチャーをしろ、ということではない。厚く重い鎧(よろい)を少し外すだけでもいい。ためらいを取り払うところから、相手の懐に飛び込む度量が生まれる。
[2]パッションとエネルギー
 日本人のコミュニケーションは非常に"低体温"だ。感情を込めることもなく、平坦で、低エネルギー。相手の心を動かすのに絶対的に必要なのは、話し手のパッションや思いだ。話す言葉に思いを込めるだけで、相手に与える心証は大きく変わってくる。ステージ上の役者がただ、セリフを淡々と読み上げているだけで、心は動かされるだろうか? セリフに情感がこもって初めて、人々は登場人物の心中を察し、自分のことのように引き込まれるのだ。コミュニケーションを成功に導くためには、話し手は時に「演じる」ことを求められる。ある時は正義のヒーローのように、ある時は、カリスマ経営者のように、役になり切る覚悟も必要なのだ。
[3]ボディーランゲージを制す
 コミュニケーションには「コンテンツ」(何を言うのか)と「デリバリー」(どのように言うのか)という二つの側面があるが、ジェスチャー、表情、姿勢、ファッション、ふるまいなど、いわゆるノン・バーバル(非言語)と言われるデリバリーのスキルについてのノウハウを学ぶ機会が日本ではほとんどない。頭の先から足先まで、人間の身体のすべての部位は無意識にメッセージを発している。頭の角度、手の動き、握手の仕方、一つひとつのしぐさで印象が決まってくるのだ。アクティングの手法を用いて、堂々としたデリバリー力を磨くことで、グローバルプレゼンスは一気に高まる。

 コミュニケーションは科学のように、公式や方程式があり、きっちりとした学び方があるものだ。また、コミュニケーションはスポーツでもある。鍛えれば鍛えるほど、その力はどんどん蓄えられ、練習をすれば練習するほど、脊髄反射のように、直感的に能力が発揮できるようになる。グローバル人材育成の第一歩は「コミュ力」の鍛錬から始めてみてはいかがだろうか。