配偶者手当

公開日 2016.5.13 深瀬勝範(Fフロンティア 代表取締役・社会保険労務士)

配偶者手当(はいぐうしゃてあて)

 従業員に対し、配偶者の有無を要件として支給される給与(手当)で、家族手当の中で配偶者に対する支給部分も、これに含まれる。支給対象となる配偶者には「(所得税の配偶者控除の対象となる)年収103万円以下」あるいは「(社会保険の被扶養者となる)年収130万円未満」などの収入制限を設けることが多い。
 仕事に専念する夫と家事・育児に専念する妻といった、夫婦間の性別役割分業が一般的であった高度経済成長期に日本的雇用慣行と相まって定着してきた制度で、妻帯者である世帯主の賃金水準を優先的に引き上げることにより、人件費の大幅な増加を抑えながら、労働者の生活を安定させる機能を果たしてきた。しかし、2000年代に入ると、「賃金は職務内容や成果に応じて支払われるべき」という考え方が広がってきたこと、配偶者手当を除いた賃金が生活に支障が生じない水準まで上昇したこと、共働き世帯や単身世帯の増加により配偶者手当の恩恵を受けない従業員が多くなってきたことなどから、配偶者手当を縮小・廃止する動きが見られるようになった。
 近年は、有配偶女性のパートタイム労働者が配偶者手当の収入制限を超えないように労働時間を調整する「就業調整」が、結果として女性の就労促進を抑制しているという指摘もあることから、政労使で配偶者手当の在り方の見直す機運が高まっている。
 2015年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」では、「女性の活躍の更なる促進に向け、税制、社会保障制度、配偶者手当等の在り方については、世帯所得がなだらかに上昇する、就労に対応した保障が受けられるなど、女性が働きやすい制度となるよう具体化・検討を進める。(中略)また、配偶者手当についても、官の見直しの検討とあわせて、労使に対しその在り方の検討を促す」とされ、さらに、15年11月26日に一億総活躍国民会議において決定された「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策 ―成長と分配の好循環に向けて―」では、「就労促進の観点から、いわゆる103万円、130万円の壁の原因となっている税・社会保険、配偶者手当の制度の在り方に関し、国民の間の公平性等を踏まえた対応方針を検討する」と示している。
 こうした方針を踏まえて、厚生労働省に設置された「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会」(座長:阿部正浩 中央大学経済学部教授)は、2016年4月に報告書を取りまとめ、その中で「パートタイム労働で働く配偶者の「就業調整」につながる「配偶者手当」(配偶者の収入要件がある「配偶者手当」)については、働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれる」としている。
 しかし、実際に配偶者手当の縮小・廃止を行う場合には、労働条件不利益変更に抵触するなどの問題が生じ得るため、各企業における見直しがどこまで進むのかは不透明である。
 なお、人事院「職種別民間給与実態調査」によると、全調査事業所のうち「配偶者に家族手当を支給する事業所」の割合は、2009年は74.7%、2015年は69.0%となっている。