鳥越 慎二 とりごえ しんじ
株式会社アドバンテッジ リスク マネジメント 代表取締役社長
近年はうつ病や過労自殺などが社会問題化し、メンタル問題は会社にとって大きなリスクとなっています。そんな中、2015年12月に実施スタートとなったストレスチェック制度について、「今まで隠れていた問題が表面化することで、やぶ蛇となるのではないか?」という声を聞くこともあります。
当社は20年以上にわたってストレスチェックの実施をサポートしてきましたが、確かにストレスチェックは会社の抱えるいろいろな課題を浮き彫りにします。しかし、だからこそ実施の意義があると考えています。
長期的観点で見た場合、メンタル不調者の早期発見は本人の状態改善だけでなく、職場環境の見直しにつながるきっかけとなります。
つまり、ストレスチェックは「法制化されたから形式的に実施するだけ」ではなく、それによって分かった高ストレス者へのフォロー、さらに職場環境などの原因解明や改善まで取り組み、メンタルヘルス不調の一次予防(未然予防)を果たすことが真の目的なのです。
ストレスチェック義務化に国が動いた理由
それでも、メンタル問題は当人の問題として、いまいちピンとこない方もいるかもしれません。あるいは社会問題として認知していても、たまたま会社にメンタル疾患による休職者がおらず、実感が湧かない方もいるかもしれません。
そこでストレスチェックの重要性を考えるに当たって、まず押さえておきたいのが実施の背景です。
メンタル問題の最悪の結末である自殺者の数字を見てみると、1998年以降は3万人を超えている状態が長く続いていました。近年は減少傾向にあるものの、依然として2万人を超える数の自殺者の対策に、会社も国も頭を悩ませてきたというのが実情です[図表1]。また厚生労働省によると、メンタル問題を抱える人の数は2010年に約95万人となり、1996年の43万人に対して、約15年で2倍以上となっています。さらに同省の調査によると、メンタル疾患による経済損失は約2兆7000億円にも上ると試算しています。
[図表1]自殺者の推移
資料出所:警察庁「自殺統計」
このような事態の深刻化を踏まえると、メンタル不調は決して「対岸の火事」ではありません。次に、具体的にメンタル疾患による企業負担について見てみましょう。
休職コストは半年間で400万円以上
ストレスチェックの意義は、ネガティブ/ポジティブの二つの側面から語ることができます。まずネガティブな側面とは、メンタル問題によって発生するリスクやコストの未然防止です。
仮に休職者が発生した場合、企業負担は主に以下の四つが挙げられます[図表2]。
① 休職者コストの増加
② 採用コストの増加
③ 人材流出リスク
④ 労災・訴訟リスク
①については、従業員がメンタル不調で休職すると、周囲の従業員は業務代替を行う必要があり、残業代や事務調整などのコストが増加します。仮に年収600万円の従業員が半年間休職した場合、損失コストは約420万円を上回るとの試算もあります。また長期的に見ると、傷病手当金や医療費の増加から、社会保険費用の増大も懸念されます。
②の採用コストについては、求人広告だけでなく採用後のOJT(職場内訓練)を含めると、会社が負担するコストはさらに膨れ上がります。また、メンタル問題は休職を経ても業務に復帰できず退職しているケースも少なくなく、③の人材流出リスクも押さえておく必要があります。
また万一業務上の理由で自殺した場合、億単位の賠償が必要となる可能性もあります。④労災・訴訟リスクも経営課題として考えておかなければならないリスクの一つです。
[図表2]メンタル問題による四つのリスク
※1 内閣府「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」
※2 独立行政法人労働政策研究・研修機構調査(2013年)による
リスクではなく「メリット」を見据えて取り組むステージへ
一方、ポジティブな側面から捉えた当制度の意義とは、従業員が活き活きとした状態で仕事に取り組むことによる生産性への貢献です。
近年は、心身ともに従業員の健康増進を企業が管理し、生産性や従業員満足度なども含めて企業価値を高める「健康経営」が注目されています。特に少子高齢化が急速に進む今日、人材確保の重要性は日に日に増しています。人材定着や組織活性化につながることを考えると、従業員が仕事にやりがいを持って、モチベーションを高く維持して働くことは、会社にとっても何より大切な経営課題といっても過言ではありません。
また、メンタルヘルス対策に力を入れていることは、採用活動にとってもPRポイントとなります。ブラック企業が問題視される今だからこそ、安全衛生にきちんと取り組む「ホワイト企業」かどうかの是非は、就職・転職活動中の若い世代にとっても年々重視されつつあります。
以上を踏まえると、ストレスチェックは従業員のメンタルヘルスを下支えするツールとして、ポジティブな効果を実現するメリットの大きい制度と捉えることができます。これまで、メンタル問題に関してはコストやリスクについての議論が多く交わされてきました。しかし「健康経営」がキーワードとなるこれからは、企業の価値を高めるという意味で、ストレスチェックを含めたメンタルヘルス対策の重要性が今後もますます高まるでしょう。

Profile
鳥越慎二 とりごえ しんじ
株式会社アドバンテッジ リスク マネジメント
代表取締役社長
東京大学経済学部経済学科卒業。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA 経営学修士号取得)。ベイン・アンド・カンパニーにてコンサルティング業務に従事後、1994年、㈱アドバンテッジパートナーズ・パートナーに就任。翌年、㈱アドバンテッジ インシュアランス サービスを設立、同社代表取締役社長に就任。1999年、㈱アドバンテッジ リスク マネジメントを設立。
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代表取締役社長 鳥越 慎二
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(医学博士、精神科医、日本産業衛生学会指導医) 深澤 健二
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