2016年01月22日掲載

目標管理で必ず結果を出す企業の作法 - 第2回 目標管理は顧客価値と経営体質上質化のマネジメントである


中村 壽伸
株式会社日本経営システム研究所
代表取締役社長

1.目標管理は「顧客価値と経営体質上質化のマネジメント」

 目標管理の狙いをどこに置くべきだろうか? これがブレていると成果は上がらない。狙いとすべきは目標売上高なのだろうか。あるいは人材育成だろうか? 実は、成功したいならそのいずれであってもいけない。目標売上高も人材育成も「手段」だからだ。「手段」と「目的」の取り違えから、結果を出せない困難が始まるのである。
 企業経営の目的が「顧客価値の実現」と「経営の存続」であることにどなたも異論はないであろう。顧客価値に貢献してこそ企業として社会に存在する意味があるし、顧客価値実現を通じた社会貢献が認められて初めて存続が可能になる。売上高は顧客価値実現の程度に応じた貢献料であり、売り上げの多寡に応じて経営体質の上質化・強化を図ることにより、さらに高い顧客価値に向けた活動が可能になる[図表1]

[図表1]目標管理を通じて目指すもの

 こうして整理してみると、売上高も人材育成も手段であって目標ではないことが分かる。したがってチャレンジシートの目標欄に売上高や販売数量目標を記載するだけでは目標管理を進めるには不十分なのである。
 また、実際にそれを記載しても、目指す目標数値は年々大きくなっていく。気合いで数値を追いかけるかたわら、目標達成を支える営業活動の上質化に取り組むことは難しい。[図表1]のように、まず目標管理の目的と手段を区別することが、経営体質上質化への第一歩となるのである。
 このように基礎理解ができたら次に進むことができる。目標管理は「management by objectives」の翻訳であるが、objectivesは「個人的な感情を挟まずに達成すべき客観的な目的」が本来の意味であり、managementは「何とかやり遂げる」ことである。したがって目標管理で成果を上げるには、「顧客の側から見た」価値の実現と「自社の経営体質上質化」を自社の実情に応じて見極めることと、双方をやり遂げるマネジメントの展開が必要である。コンサルティングの場で「他社事例を見せてほしい」との要望を受けることがある。守秘義務に反しないよう加工して提供するのだが、確かに目標設定を理解する一助にはなるものの、これを下敷きに自社目標を設定しようとする依存心がある場合は、この段階ですでに他社に追い付ける経営はできない、との理解が必要である。

2.「顧客の側から見た」価値と「自社の経営体質上質化」の意味

 [図表1]のとおり、目的系目標項目は二つあるが、「顧客の側から見た」価値とは、顧客が求める価値を自力で見抜いて貢献できた企業に高い評価を与えるということであり、BtoBでもBtoCでもその構図は同じである。「品質への信頼」「適正な価格」「短い納期」「クレームの無い仕事ぶり」「行き届いたサービス」が要素である。例えば品質の信頼を揺るぎないものにするには顧客が納得する実績を積み重ねることが必要だ。信頼のもとは何であるかを知るには日常業務をこなすだけでは見つけられない。あくまで顧客側から見て自社がライバル社との比較優位に立たなければ信頼を増進させることはできない。
 何が顧客価値かを見抜くことに加えて比較に勝たなければならないので、ベンチマークを置くことが効果的である。できるなら、自社の顧客満足度を直接顧客に聞いてみるとよい。企業によってはこの方法は現実的でないと答えるが、「優秀」との評価を受ける企業が自力で顧客満足度を直接調査している話は特に珍しいことではない。要するに徹底した顧客価値の追求と実現が自社存続の決め手なのだ。
 自社の経営体質上質化とは、売上高向上、新規顧客開拓、リピーター率向上、重点顧客深耕、重点製(商)品売り上げ数量(成長率)向上、コスト低減(収益性向上)、社員1人当たりの付加価値(労働生産性)向上などをいう。これらの項目は顧客価値実現の要素であり、同時にその成功を再現し続けるための体質強化策でもあって、互いに車の両輪である。しかし、新規顧客開拓一つを例にとってもいかに活動すればこれを実現できるかはやってみなければ分からない。

 具体的な例として、ここでは目標管理を導入している企業A社、B社にとって、売り上げ向上にどのような活動が効果的かを考えてみる。
 A社は軒並み訪問で成果を見込んでおり、B社は綿密な事前調査で精度の高い提案書を組み立てて提案のヒット率を上げている。いずれがより成果が大きいかは別として、目標管理の仕組みを活用するからにはこれまでのアクションとは異なる新しい発想と行動を試してみて殻を打ち破り、旧弊を打破することがなければ意味が半減する。従来のやり方を強化するだけなら何も目標管理を導入する必要はなく、ノルマ管理を続ければよい。
 例えば、A社の場合は軒並み訪問のやり方を見直し、取り引きしたい企業を絞り込んでリストを作成し事前調査で各社の情報を得て、訪問の質を向上させることが有効であろう。一方B社では、提案書を通じて顧客の共感を引き出せるような、内容のレベルアップを目指す改善が有効である。このように、目標管理の導入・運用は、業務プロセスの改善と実行を促し、より大きな成果を実現し続けるためのものである、との理解が重要である。
 さらに、改善の糸口をつかむ工夫の例(A社の場合)として、まず[図表2]のような売上高の計画表を作ってみる方法もある。顧客それぞれの経営に貢献する自社の製(商)品はどれで、どれだけ売れるかをまとめたものだ。これを作成するには顧客ごとのビジネスモデルや経営方針、顧客市場の市況をよく見ておかなければならない。

[図表2]A社の顧客別自社製(商)品別売上計画(例)

 その次は、製(商)品それぞれの粗利益を使って表を作成してみるとよい。売上高が同じでも製(商)品の構成比を違えることによってより大きな粗利益額を獲得することができる。それと顧客の将来性を同時に判断して自社の成長性を設計することにしたら、顧客から選ばれようとしていた自社が顧客を選ぶ側に回ることになり、自社の事業領域をより精密にセグメントしビジネスモデルを戦略的に見直すことになる。大企業と中小企業とでは目標管理の狙いが異なるわけだが、自社の成長方向を研ぎ澄まさせるところまで活用したい。
 店舗経営を展開する企業であれば、さらに交差比率を用いることも検討したい。「交差比率=粗利率×商品回転率」で算定され、企業収益に貢献する商品をランキングすることができる。さらに、交差比率に売上高構成比率を掛け合わせると商品別に売上高に対する粗利益貢献ランキングを見ることができる。これを店舗別に算定すれば店舗ごとに最善の品ぞろえを考える手がかりが得られる。このように目標管理では、顧客価値に貢献しながら、自社の経営体質上質化を向上させるための有効策を目標に選ぶ必要があるのである。

3.具体的な目標設定

 [図表2]において売上高目標を設定する場合、顧客別売上高と製(商)品別売上高のどちらから考えるべきだろうか? 答えは常に顧客別売上高でなければならない。製(商)品別売上高から目標設定する姿勢では、顧客の事情ではなく自社都合で数字の達成を追うことになるからである。そうすると主要顧客甲社、乙社向けにはそれぞれへの貢献度の高いビジネスは何を実現することが重要かを考えることを経て目標が決まる。一方、それ以外の顧客に対するビジネスについては自社の得意分野を伸ばす方法で高い評価獲得に効果的な項目を選択することになる。例えば「納期の短縮」や「サービスの向上」のようにである。また、自社の資金状況が、売掛金回収の遅れからひっ迫しがちな企業の場合は、売掛金回収率向上が営業部門の目標になる場合もある。
 このように目標管理では、顧客価値の実現と経営体質の上質化を実現する項目を目標に設定することが重要なのである。売掛金回収率向上のために、経営分析を学んだり債権法を学んだりすることを人材育成目標として取り上げる企業がある。本当にそれが必要なら仕方がないが、できるだけ早くその状態から抜け出して、本来の業績への貢献項目を目標化してほしい。

中村 壽伸 なかむら ひさのぶ
株式会社日本経営システム研究所 代表取締役社長
学習院大学法学部卒業。銀行勤務を経て現職。企業の事業戦略と経営計画を実現する人事・組織戦略の専門家。中堅・中小企業から上場企業まで、業種を問わず500社以上の企業をコンサルティングした実績を持つ。セミナー講師としても活躍中。主な著書に「経営者は昇進・昇格する人材をどのように見分けているのか」(日本生産性本部)、「成果主義の人事・報酬戦略」(ダイヤモンド社)、「バカな人事 ~なぜ御社の人事は社員のやる気を失わせるのか~」(あさ出版)ほか多数