ボストンコンサルティンググループ(BCG)の若手コンサルティングスタッフの育成責任者らによる本書は、第1部(第1章・第2章)で、BCGの人材育成のベースにある二つの考え方を紹介した上で、第2部(第3章・第4章)で、成長が必要なメンバーの視点でできることと、育成するマネジャーおよび組織の視点でできることを紹介しています。
第1章で、「成長の方程式①」として、「マインドセット(基本姿勢)+スキル」ということを掲げ、個別のスキルをいくら増やしたりしても、しっかりしたマインドセットを持たない限り成長は難しいとしています。具体的には、スキルマニアとしての「作業屋」やフォロワーで終わるのではなく、自分の答えで仕事をするリーダーになりたければ、①他者への貢献に対する強い想い、②何度もチャレンジできる折れない心、③できない事実を受け入れる素直さ、の三つのマインドセットが必要だとしています。また、こうしたマインドセットは、経験をベースとした「気づき」があれば変えられるとしており、「成長する経験」として、①クライアントと対峙する場に飛び込む、②小さな成功体験を積む、③失敗経験を上手に振り返る、の三つを挙げています。
第2章では、「成長の方程式②」として、「正しい目標設定+正しい自己認識」ということを掲げています。頑張っているのに伸び悩むタイプとして、「手段が目的化する人」など三つの例を指摘。さらに、目標設定における落とし穴として、具体性のない「スローガン」を掲げるなど三つを挙げ、自己認識の落とし穴として、「原因他人論」などやはり三つを挙げています。
第3章では、今問われているのは、成長の"スピード"であるが、成長を加速させるにはどうすればよいか、その鉄則として、①学びのスイッチが"オン"の時間を増やす、②自分の「目を肥やす」、③自分の行動を「分解」する、④とにかく実践する、変化する、の四つを提示。その上で、成長が加速するよう「育てられ上手」「任され上手」になるにはどうすればよいかを説いています。
第4章では、成長をPDCAで「自動化」するにはどうすればよいかを説き、そのためには、仕事をどこまで任せるかを考えるとともに、モチベーションをマネジメントすることが肝要であるとしています。そして、PDCAの進め方については、育成を狙った適切な仕事を任せる(PLAN)、あえて転ぶまでやらせてみる(DO)、適切なタイミングでフィードバックする(CHECK)、具体的な行動を意識したアドバイスを行う(ACTION)――というサイクルを回すことが必要であるとし、短期集中特訓で成長を自動化する方法を紹介しています。
本書は、人材育成についてのBCG内における暗黙知の形式知化を試みたものであるとのことです。コンサル会社らしく、各ポイントを3項目程度にまとめ、分かりやすく書かれていますが、スキルよりも基本姿勢について書かれた啓発書である分、目新しいことが書かれているわけではありません。奇をてらったものではないという意味ではしっくりきますが、やっている人はすでにやっているとの印象も持ちました。ただし、BCGの若手人材の育成において、「多様なバックグラウンドの人材」を「短期間で」戦力化するということが強く意識されているということは感じられました。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2016年1月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー