第1章で、今どきの"困った若手社員"の人材像として、以前からある、あいさつができない、指示待ち、すぐ辞めるといった「後ろ向き型」と、著者が『就活エリートの迷走』(2010年/ちくま新書)で指摘した、自身が描くキャリアビジョンにこだわりすぎて迷走する「キャリア迷走型」の二つに加え、後者が次のモードにシフトした「自己充実型」を三つ目のパターンとして挙げています。「自己充実型」とは、上昇志向が弱く、リスクを回避し、保守的で、自己の人生を充実したものにするため自分の時間を大切にするタイプであり、何をすべきか分かっていて、それをする能力もありながらも、失敗するリスクを回避してやらないとのことです(著者はこれを「成長する自由からの逃走」と呼ぶ)。
第2章では、仕事や仕事環境の変化が若手を育ちにくくしているとし、新卒を一括採用し、新人研修やOJTを通じて若手を育成する「個社完結型『採用・育成』システム」の寿命は尽きかかっており、今の時代に即した「社会協働型『育成・活用』システム」への移行が急務だとしています。
第3章では、社会に適応し、成長しようとする若手が紹介されています。そうした若手は大学生活で、社会人、教員など、自分と「異なる価値観」を有する人たちと深く交流していたなど、共通する固有の経験を積んでいるとのことです。
第4章では、大学時代にこうした機会に恵まれなかった人はどうすればいいのかを考察しています。人が育つ職場に身を置くことや、OJTの機会を活かすなどの手段が現実には難しい中、自身のキャリアに不安のある若手が参加しているのが、社外でさまざまな人が集まって行う「勉強会」であるとし、今どきの「勉強会」のスタイルを紹介し、若手人材育成の代替手段・機能としては有望なのではないかとしています。
第5章では、若者"再生"のカギは「大学での学び」(大学時代における学習経験)にあるとし、社会人になった後にも、自社内にとどまらずに異質な価値観と出会う「越境学習」の機会が必要であるとしています。
第6章では、企業は、これからは、大卒者全員を基幹人材として採用する考えを一度リセットして、専門コース、幹部コースといった具合に「キャリア・コースを複線化」することと、多忙を極め"プレイングマネージャー化"している管理職の職務を整理、再編することが求められるとしています。
全体として『就活エリートの迷走』からさらに進んだ"現代若者像"の分析となっていて、また、前著以上に提言部分に力を入れているように思われ、第4章は当事者である若者に向けて、第5章は大学へ向けて、第6章は企業へ向けてと、提言の対象も広角的になっています。
ただし、それでもやはり"リポート的"とでも言うか、分析や情報提供に比べ提言部分がやや弱い印象も受けました。第4章では「勉強会」についての現況をリポートしており、第5章の「大学教育」の部分も同様に、大学で実際に行われている先進的な取り組みを紹介しているのに対し、第6章の「企業」に対する提案は漠たる印象を受けました。人事パーソン目線で見ると、この点がややもの足りなかったでしょうか。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2015年7月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー