本書は、日本の第一線で活躍する経営コンサルタント、経営学者たちが、自身の推薦する経営論・戦略論の名著を、事例分析を交えながら紹介したものです。ピーター・ドラッカー『マネジメント』、マイケル・ポーター『競争の戦略』といった古典から、ジャック・ウェルチ『ウィニング 勝利の経営』、ルイス・ガースナー『巨象も踊る』のような敏腕経営者による経営論まで12冊が取り上げられています。
本書の特長として、まえがきで、「ビジネスの知の検索」の有効な第一歩となり得ること、各名著のポイントが簡潔に紹介されていて「名著のつまみ食い」ができること、専門家が名著をどのように読むのかその「読み方」を知ることができること、の三つが挙げられていますが、その点は異存ありません。各名著の紹介のページ数はそう多くはないですが、ケーススタディも含めコンパクトにまとまっていて、密度は濃いように思いました。
12冊の本を9人の専門家が紹介する形となっていますが、執筆者それぞれの思い入れが込められているのが興味深く、また、各名著の内容に関連したケーススタディの取り上げ方、そうしたケーススタディを通しての各名著の読み込み方やポイントの捉え方にもそれぞれ特徴があります。読者が自分自身の読み方と比較しつつ、名著の内容をあらためて想起するなり読み返すなりして、理解をいっそう深めるのもよいのではないでしょうか。
また、本書で紹介されている名著の中で、未読のもので興味をひかれたものがあれば、ぜひこれを機会に、それらに読み進まれることをお勧めします。12冊の中には、「マネジメント」という大きな括(くく)りの中で、ポーターやクリステンセンの代表作のようにマーケティングやイノベーション寄りのテーマの本もありますが、ジェームズ・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』、ピーター・センゲ『最強組織の法則』など、「人事マネジメント」というジャンルにおいても名著とされているものもあります。また、『戦略サファリ』が取り上げられているヘンリー・ミンツバーグのように、経営論・戦略論がよく知られているものの、それだけでなく、人と組織に関しても多くの名著を著している経営思想家もいます(もちろんドラッカーしかりです)。
紹介されている本の中には大著もあり、忙しい人事パーソンにとってはなかなか手にする機会も読む時間もなかったりするかもしれません。しかしながら、人事パーソンの役割の一つに経営のパートナーであることが挙げられるかと思いますが、そうした意識があれば、こうした「マネジメント」の名著とされている本(や著者)に何らかの関心を持ち、実際に手にし、読んでみるということは自然な流れではないかと思います。
繰り返しになりますが、個人的には、本書そのものもさることながら、本書を契機に、ここで紹介されている名著に読み進まれることを一番お勧めしたいと思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2015年2月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー