公開日 2014.11.27 深瀬勝範(Fフロンティア 代表取締役・社会保険労務士)
心理的契約(しんりてきけいやく)
契約書などで明文化された内容以外にも、契約当事者の間で成立したものと捉えられる「暗黙の了解」のこと。米国カーネギーメロン大学のデニス・ルソー教授は、心理的契約を「当該個人と他者との間の互恵的な交換において合意された項目や状態に関する個人の信念」と定義している。
例えば、日本企業の「終身雇用制」は、明確な取り決めがなされたわけではなく、使用者側が「労働者は転職しないだろう」という期待を、労働者側が「使用者は解雇を行わないだろう」という期待を持つことによって成立していると捉えられるものであり、このよう契約当事者間で成り立つ暗黙の了解を「心理的契約」という。
なお、心理的契約は、あくまでも契約当事者の一方(通常は労働者)が「お互いにこういう義務を負っている」と知覚することによって生じるものであり、他方(通常は使用者)が、それを共有、了解している必要はない。
明文化された契約と異なり、心理的契約は、それを破ったとしても法的な責任を問われることはない。それにも関わらず、当事者が心理的契約を守ろうとする理由としては、次のことが挙げられる。
(1)心理的契約を破った事実が明るみに出ると、社会的な評判が低下し、長期的に見れば、破った側に不利益が生じかねないから
(2)心理的契約を守ることにより、契約当事者間の良好な関係が維持され、それが双方の利益に結び付くから(例えば、業績低迷時においても使用者が雇用を確保することによって、労働者のモチベーションを高めようとすること等)
日本企業の雇用関係は心理的契約によって支えられてきたと言われているが、近年、終身雇用制の崩壊や成果主義の広がりなど、その状況には変化が見られる。