2015年01月27日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [60]『クリエイティブ人事――個人を伸ばす、チームを活かす』

 (曽山 哲人/金井 壽宏 光文社新書 2014年7月)


 本書は、サイバーエージェントの取締役人事本部長の曽山哲人氏が、組織行動研究の第一人者である金井壽宏氏との対談も交え、自社の人事制度を紹介しつつ、人事の在り方や人事制度の本質について語った本です。

 曽山氏は、自社創業7年後の2005年、人事本部の発足と同時に人事本部長に抜擢され、すでに急成長を遂げてベンチャーらしさが失われつつあった社内の雰囲気に危機感を覚え、日常業務を回すだけの「機能人事」からの脱却を図ることを目指したとのことです。そして、半年ごとの新事業提案コンテスト「ジギョつく」、役員と社員がチームを組み未来(あした)につながる新規事業を考え提案する「あした会議」、サービスアイデアをモックアップ(試作品)に落とし込んで提案するコンテスト「モックプランコンテスト」など、イノベーションと組織活性化を促すさまざまな仕組みを打ち出してきました。

 人事本部のミッションを「コミュニケーション・エンジン」と定義し、月に100人の社員と話すことを自らに課しているとのこと。懇親会支援制度や部活動支援制度などを導入し、インフォーマル・コミュニケーションの活性化に力を入れている点なども個人的には興味深く感じましたが、さまざまな経歴の人が集まるベンチャー企業などではそれほど珍しくない施策かもしれません。「キャリチャレ」と呼ばれる社内異動公募制度なども含め、本書にあるこうした制度は、同業他社や他業種の企業でも多くが導入しているように思います。

 序章を金井教授と曽山氏が交互に執筆して、終章(第5章)に両者の対談があるのを除き、残りの部分は曽山氏によるこうした社内の人事制度やその考え方の紹介となっています。ただ、結果的に制度を紹介する企業ガイダンス的な内容になってしまっている面があるとともに、人事部目線で見ると、ある特殊なケースにおける「成功体験」を聞かされているような印象も受けました。

 「2駅ルール」というオフィスの最寄り駅から2駅以内に住む社員に補助をする仕組みを社員の5割弱が利用しているといったことも、急成長を遂げたベンチャー企業で、規模の割りには社員の平均年齢が若いという特殊性の現れではないかと。中には、やや思いつき的な発想からきたのではと思われるような制度もあり、ある程度の遊び心があってこそのベンチャーと言えなくもありませんが、制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるとも取られかねません。

 本書自体、制度はあくまで表層であって、人事における「クリエイティブ」とは本質的にはもっと深いものであるという立場であるかと思いますが、第4章から終盤の対談にかけては、むしろ、人事パーソンに求められる資質といった自己啓発的観点からの論調になって、それはそれで参考になる部分もあったものの、「クリエイティブ」ということに関してはやや漠然としたまま終わってしまったようにも思えました。

 タイトルからある種の期待感を抱いただけに、そのあたりが物足りなく感じられ、残念でした。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2014年8月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー