永井 由美 ながい ゆみ 永井社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士
1.被保険者の年齢に応じた事務手続き
社会保険では、年齢に応じて必要な手続きがあったり保険料の控除に変更があったりするため、社員の節目年齢を意識して給与計算(保険料の徴収)や手続きを行うようにしたい。
[図表1]社会保険の節目年齢
到達 年齢 |
生年月日 (H27年時点) |
社会保険 | 内容 |
40歳 | S50生 | 介護保険 | 介護保険第2号被保険者該当 40歳到達月(※)分から介護保険料徴収開始、届出不要 |
60歳 | S30生 | 雇用保険 | 高年齢雇用継続給付の支給申請 |
64歳 | S26.4.1 以前生 |
雇用保険 | 雇用保険料免除 4月支払給与より雇用保険料徴収不要、届出不要 |
65歳 | S25生 | 介護保険 | 介護保険第1号被保険者該当 65歳到達月(※)分から介護保険料徴収不要、届出不要 |
国民年金 | 被扶養者が60歳未満で国民年金第3号被保険者の場合は第3号被保険者から第1号被保険者への種別変更が必要 | ||
70歳 | S20生 | 厚生年金 | 厚生年金被保険者資格喪失 「厚生年金保険70歳以上被用者該当・不該当届」 「厚生年金被保険者資格喪失届」の提出 |
75歳 | S15生 | 健康保険 | 健康保険被保険者資格喪失 健康保険被保険者資格喪失届の提出 |
※到達月とは、誕生日の前日が属する月をさすため、誕生日が3月2日の人は3月、3月1日の人は2月が到達月となる。
2.社員が40歳に到達したときの手続き
社員が40歳に到達したときは、介護保険に加入することになるため、介護保険料の徴収が始まる。したがって、社員が40歳到達月(誕生日の前日が属する月)分以降の健康保険の保険料は「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の料率(各都道府県の保険料額はこちらを参照)を使用する。なお、手続きは不要である。
[図表2]介護保険料の徴収開始時点の例
誕生日 | 40歳到達日 | 40歳到達月 | 介護保険料控除が始まる月 |
S50.2.1 | H27.1.31 | H27年1月 | H27年2月支払い給与 (控除する保険料は1月分) |
3.社員が60歳に到達したときの手続き
60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者であって一定の要件を満たす者には、「高年齢雇用継続基本給付金」が支給されるので、公共職業安定所(ハローワーク)に支給申請の手続きをする。なお、本稿では高年齢雇用継続給付のうち、基本手当等を受給していない人を対象とした「高年齢雇用継続給付金」にのみ言及することとする(基本手当等の受給中に再就職をした人を対象にした「高年齢再就職給付金」についてはこちらを参照)。
<高年齢雇用継続基本給付金の支給申請>
(1)一定の要件(以下のすべてを満たすこと)
①60歳以上65歳未満の一般被保険者であること
②被保険者であった期間が5年以上あること
・被保険者資格の喪失から新たな被保険者資格の取得までの間に求職者給付および就業促進手当を受給しておらず1年以内であれば「被保険者であった期間」として通算する。
・60歳時点で被保険者であった期間が5年に満たない場合は5年到達月を60歳到達月とみなす。
③原則として60歳時点と比較して、60歳以後の賃金(みなし賃金を含む ※1)が60歳時点の
75%未満となっていること。ただし、支給限度額の上限(34万761円 ※2)以上、下限(1840円 ※2)を超えない場合は支給されない。
※1 雇用保険による給付が適切でない場合(欠勤等)に賃金減額があったときは、減額した部分も支払われたものと
みなして賃金の低下があるかを判断する。
※2 ③の支給限度額の上限・下限額は、平成27年7月31日までの額。
(2)提出する書類
①高年齢雇用継続給付支給申請書
記載例については「高年齢雇用継続給付金の内容及び支給申請手続きについて」
(厚生労働省)P16参照。
初回申請は「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続支給申請書」
の用紙を使用する。
②雇用被保険者六十歳到達時等賃金証明書⇒[図表3]参照
③支給申請書と賃金証明書の記載内容が確認できる書類(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など)
④被保険者の年齢が確認できる書類等(運転免許証か住民票の写し[コピー可])
[図表3]雇用被保険者六十歳到達時等賃金証明書の記入ポイント
(3)提出先
事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)
(4)提出時期
①初回申請
最初に支給を受けようとする支給対象月(受給要件を満たし給付金の支給の対象となった月を
いう)の初日から起算して4カ月以内
例:最初の支給対象月が1月の場合
支給対象月の初日=1月1日
支給対象月の初日から起算して4カ月=4月31日までに請求
※初回申請のみ3カ月分の申請ができる。
②2回目以降申請
2回目以降の支給申請は2カ月に1回となり、公共職業安定所(ハローワーク)から交付される
「高年齢雇用継続給付次回支給申請日指定通知書」に申請期間が記載されている[図表5、6]。
なお、提出期限を過ぎると支給が受けられなくなるので注意すること。
※支給申請後に送付される「支給決定通知書」は本人に交付すること。
[図表4]高年齢雇用継続基本給付金の手続きの流れ
資料出所:厚生労働省「高年齢雇用継続給付金の内容及び支給申請手続きについて」P9
[図表5]2回目以降の支給申請の時期
資料出所:厚生労働省「高年齢雇用継続給付金の内容及び支給申請手続きについて」P15
[図表6]高年齢雇用継続給付支給決定通知書(見本)
(5)その他
①受給資格(被保険者期間が5年以上)を満たすか分からないとき
「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続支給申請書」を「高年齢雇用継続給付受給資格確認票」としてのみ使用する。この場合、受給資格確認のために必要な事項のみを記載する。⇒[図表7]参照
②特別支給の老齢厚生年金との調整
高年齢雇用継続給付金が支給されると、特別支給の老齢厚生年金が減額される(仕組みについてはこちら)。なお、従来必要とされていた「支給停止事由該当届」については、平成25年10月より年金事務所への提出が原則不要となった。
4.社員が64歳に到達したときの手続き
社員が64歳になって最初の4月以降の雇用保険料は事業所分も被保険者分も免除される。64歳になった月から雇用保険料が免除されるわけではないので注意が必要である。
[図表8]雇用保険料が免除になる年度と生年月日
平成26年度からの免除者 | 昭和24年4月2日~昭和25年4月1日生 |
平成27年度からの免除者 | 昭和25年4月2日~昭和26年4月1日生 |
5.社員が65歳に到達したときの手続き
(1)介護保険料の徴収の終了
介護保険第1号被保険者となり介護保険料は給与から控除しなくなるので、65歳到達月分以降の健康保険の保険料は「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の料率を使用する。なお、手続きは不要である。
65歳以降の介護保険料は原則年金から徴収されることになるが、65歳到達から数カ月間は市区町村に納付することになるので、65歳到達前に市区町村より本人宛に通知が来る。
健康保険組合の場合は65歳以上になっても介護保険料を徴収することもあるので、健康保険組合の指示に従うこと。
[図表9]介護保険料の徴収終了時点の例
誕生日 | 65歳到達日 | 65歳到達月 | 介護保険料控除がなくなる月 |
S25.2.1 | H27.1.31 | H27年1月 | H27年2月支払い給与 (対象となる保険料は1月分) |
(2)国民年金第2号被保険者ではなくなる
従業員に年金受給権があれば第2号被保険者でなくなるので、その被扶養配偶者は第3号被保険者ではなくなるため、第3号被保険者から第1号被保険者への種別変更手続きが必要になる。この手続きは事業所ではなく本人が市区町村または年金事務所で行うものだが、手続きに行く必要があることを説明しておくとよい(なお、健康保険についてはそのまま扶養でいることができる)。
6.社員が70歳に到達したときの手続き
社員が70歳に到達すると、厚生年金保険の被保険者資格を喪失するため、70歳到達月以降分の厚生年金保険料は給与から控除しない。
以下の①~③すべてに該当する者については「70歳以上被用者 該当・不該当届」「厚生年金保険 被保険者資格喪失届」(資格喪失日は70歳誕生日の前日)の提出が必要になる。提出先は管轄の年金事務所である。
①昭和12年4月2日以降に生まれた人
②厚生年金保険の適用事業所に勤務し、勤務日数および勤務時間が一般の被保険者の概ね4分の3以上ある。
③過去に厚生年金保険の被保険者期間がある。
[図表10]厚生年金保険料の控除終了時点の例
誕生日 | 70歳到達日 | 70歳到達月 | 厚生年金保険料控除がなくなる月 |
S20.2.1 | H27.1.31 | H27年1月 | H27年2月支払い給与 (対象となる保険料は1月分) |
7.社員が75歳に到達したときの手続き
社員が75歳に到達すると後期高齢者医療制度に加入するため健康保険の資格を喪失する(被扶養者がいる場合は同時にその被扶養者も資格を喪失する)。「健康保険被保険者資格喪失届」(資格喪失日は75歳誕生日の当日)に、被保険者と被扶養者の健康保険証および健康保険高齢受給者証を添付して管轄の年金事務所に提出する。被保険者本人には75歳になる前に「後期高齢者医療被保険者証」が後期高齢者医療広域連合より送付される。
後期高齢医療制度に加入する月以降分からは健康保険料は給与から控除しない。
[図表11]健康保険料の控除終了時点の例
誕生日 | 75歳誕生日 | 後期高齢者医療加入月 | 健康保険料控除がなくなる月 |
S15.2.1 | H27.2.1 | H27年2月 | H27年3月支払い給与 (対象となる保険料は2月分) |
8.チェックポイント
□誕生日の前日を節目年齢到達日としているか?
※社会保険における年齢は誕生日の前日に到達するので1日生まれは注意が必要である。
例:S50.2.1生 40歳に到達するのはH27.1.31→40歳到達月はH27年1月
□毎月の社会保険料控除は到達月の翌月分から変更しているか(75歳到達は除く)?
□賞与の保険料控除は支払月に到達している年齢で控除しているか?⇒[図表12]参照
例:12月10日:賞与支払い 12月15日:40歳到達
→12月は40歳到達月になるので賞与から介護保険料を徴収する。
(12月払給与からは11月分保険料を控除するので介護保険料は徴収しない)
□健康保険・厚生年金保険資格喪失届に記入する資格喪失年月日を誤っていないか?⇒[図表13]参照
□4月1日現在で64歳以上の従業員から雇用保険料を徴収していないか?
[図表12]社会保険料の控除に変更がある被保険者の年齢一覧
[図表13]資格喪失届に記入する資格喪失年月日
資 格 喪 失 事 由 | 資 格 喪 失 年 月 日 |
退職・死亡 | 退職日または死亡日の翌日 |
70歳到達により厚生年金被保険者の資格を喪失する場合 | 70歳誕生日の前日 |
75歳到達により後期高齢者医療制度の被保険者資格を取得して健康保険の資格を喪失する場合 | 75歳誕生日の当日 |
永井 由美 ながい ゆみ 平成18年永井社会保険労務士事務所開業。年金事務所年金相談員、労働基準監督署労災課相談員、雇用均等室セクシャルハラスメント相談員、両立支援コーディネーターの経験を活かして、講師、年金相談、労務管理を中心に活動中。親の介護を通じて介護保険に興味を持ち、千葉市の介護保険関係審議会委員(平成19~22年度)を務める。著書「社労士業務必携マニュアル」(共著・日本法令) |
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