永井 由美 ながい ゆみ 永井社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士
1.高校卒者求人活動のルール
高校卒者の求人活動は、授業や学校生活に支障を来さないよう、大学卒者求人とはルールの一部とスケジュールが異なる。
6月20日 | 公共職業安定所における求人申し込みの受付開始 |
7月1日 | 学校への求人申し込みおよび学校訪問開始 |
9月5日 | 企業への推薦書類提出開始(いわゆる「解禁日」) |
9月16日 | 選考および内定開始(1人1社まで) |
10月1日 | 1人2社まで複数応募を認める |
選考後はできる限り速やかに採否決定・通知を行うこと |
また、仕事に関する知識・経験に乏しい高校生が適切な職業選択と円滑な就職活動を行うためには、関係者の助言・援助が必要であり、企業は公正・公平な募集・採用選考を行わなければならない。
以下、高校卒者の求人活動の特徴を具体的に説明する。
(1) 学校を通しての就職活動
高校卒者の求人は、主に高校の進路指導部に対してインターネット(厚生労働省職業安定局「高卒就職情報WEB提供サービス」)を通じて提供されているため、就職希望者が学校を通さないで求人情報を得ることは難しいと考えられる。また、内定までは会社と就職希望者が直接に連絡を取ることはできず、内定後も卒業式までは学校を通して連絡することが望ましい。
(2) 1人1社制
一度に複数の企業へ応募すると就職活動に追われ、学校生活に支障を来す恐れがあるため、解禁日から一定の期日までは1人1社しか応募することができない。その後、1ヵ月程度で2社への応募が可能になる(都道府県によって時期や会社数は異なるため、【都道府県高等学校就職問題検討会議における申し合わせ等】参照)。大学生であればすでに内定を得ながら就職活動をすることもあるが、高校生の場合は内定=就職となることがほとんどである(ただし、2社応募可能時期以降は内定辞退もあり得る。)。
(3) 全国高等学校統一用紙のみを使用
履歴書(本人が記入。)、調査書(学校が記入。校長印があるもの。)は全国統一で指定されており、選考の過程において、それ以外の書類を学校や就職希望者に要求することはできない。
(4) 書類選考のみによることなく面接を行う
高校卒者の選考については、書類選考によるふるい落としは行わずに面接を行うことが望ましい。また、高校卒者は成長過程にあるので、面接の際には潜在的な能力や採用後の教育訓練による可能性まで考慮するようにしたい。
(5) 法律の適用
高校卒者の求人であってもその他の求人と同様に、法律の適用について注意を払わなければならない。
[図表2]二重に守られている高校卒者の求職活動
2.採用選考・内定において押さえておくべき実務上のポイント
高校卒者の採用選考では、以下の点を押さえてトラブルを防ぐようにしたい。
なお、面接・選考内容については、ルール(厚生労働省「採用のためのチェックポイント」、東京都「採用と人権(明るい職場を目指して)」参照)を守らないと行政から指導を受ける可能性があるため、事前に確認しておく必要がある(【採用選考のためのチェックリスト】参照)。
(1) 作 文
本人の家族状況、生活環境、思想・信条を課題にしない。
×問題事例
「私の家族」
「私の生い立ち」
業務に必要な知識や能力を判断するための方法として適当でないばかりでなく、「触れられ
たくない」「他人に言いたくない」という事情を抱えている就職希望者に苦痛を与えること
になる。
「尊敬する人物」
本来自由であるべき思想・信条を直接・間接的に書かせることになる。
(2) 面 接
① 就職差別につながる恐れがある事項についての質問は避けること。
×問題事例
「あなたの家は何新聞を読んでいますか」
「今の社会をどう思いますか」
「お父さん、お母さんの出身地はどこですか」
「(住居である)○○町は国道××線のどちら側ですか」
② 男女雇用機会均等法に抵触しないこと。
×問題事例
男性または女性だけに「結婚や出産後も働き続けようと思っていますか」「転勤は可能です
か」
③ 適性・能力を基に判断する。
○望ましい例
「得意な学科は何ですか」
「あなたの長所は何だと思いますか」
「初めての人と話をすることが苦になりませんか」
「人の世話をするのは好きですか」
「どんな仕事をしてみたいですか」
「特技は何ですか」
④ 会社の情報を提供する。
業務について具体的に話すことで、就職希望者の考える業務内容と実際の業務内容のミスマッチを防ぐことができる。
○望ましい例
「立ってする仕事が多くなりますが大丈夫ですか」
「重いものを移動させる作業がありますが大丈夫ですか」
「深夜の勤務ですが大丈夫ですか」
「何か聞いておきたいことはありますか」
(3) 健康診断
採用選考時に健康診断を画一的に実施することは就職差別につながる恐れがあるため、職務遂行能力を判断するために必要な場合は、業務との関連性を十分に説明し、本人の同意を得た上で必要な検査項目のみ行うこと。
(4) 採否の決定
① 適性・能力に基づき、公正かつ総合的に検討すること。高校卒者は成長過程にあるので潜在的な
能力や、採用後の教育訓練による可能性についても考慮することが望ましい。
② 1社の結果が出るまでは次の会社に応募できないので、結果はできる限り速やかに通知すること。
③ 採用内定は文書で行い「採用の時期」「採用条件」を明記することが望ましい。
④ 不採用者の提出書類は速やかに学校長宛に返信すること。不採用理由を明示する義務はないが、
問い合わせがあった場合に回答が不十分であると、身元調査を行ったのではないか等の疑問につな
がってしまう。
(5) 内定取消・内定辞退
原則、内定を取り消すことはできないが、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じても内定取消を行わざるを得ないときは、ハローワークおよび学校長に通知しなければならない。また、内定者から内定辞退の申し出があった場合は、直接内定者と交渉するのではなく学校を通すこと。
(6) 採用後に提出書類を求めるときの注意点
① 入社承諾書以外は入社までは提出させないことが望ましい。
② 戸籍謄本、本籍地欄がある身上書を求めてはいけない。
③ 誓約書等に法令に違反する条項を入れない。
×問題事例
「労働組合に加入しません」
④身元保証書の提出を求める場合は、その必要性を十分検討すること。
3.個人情報の取り扱い
① 内定前は、全国高等学校統一用紙以外の提出を求めない。
② 提出書類の取り扱いに注意する。
・誰でも見られる場所に置いたままにしない。
・不採用者には速やかに返却する。
・紛失しないように注意する。
・目的外利用をしない。
③ 業務上必要のない情報は保管しない。
○望ましい例
車の運転が必要な職種で運転免許証を提出させる場合は、本籍地が見えないようにコピーする
=編集部より=
全12回の本連載は今回で最終回となります。実務に関する法令は年々改正・変更が行われますが、毎月の担当業務の準備等に際し、本記事を振り返りお役立ていただければ幸いです。
ご愛読いただき有り難うございました。
永井 由美 ながい ゆみ 平成18年永井社会保険労務士事務所開業。年金事務所年金相談員、労働基準監督署労災課相談員、雇用均等室セクシャルハラスメント相談員、両立支援コーディネーターの経験を活かして、講師、年金相談、労務管理を中心に活動中。親の介護を通じて介護保険に興味を持ち、千葉市の介護保険関係審議会委員(平成19~22年度)を務める。著書「社労士業務必携マニュアル」(共著・日本法令) |
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