2014年09月19日掲載

人事担当者のための法律読みこなし術 - 第29回 「原則と例外」の規定パターンに慣れる

 


吉田利宏  よしだとしひろ 元衆議院法制局参事


■S君、宴会セットを命じられる

 新入社員のS君は廊下でA係長に呼び止められました。A係長の話は次のようなものでした。どうやら、S君は宴会のセッティングを命じられたようです。

 今月中に部の歓送迎会をやろう。みんなの都合を聞いて参加できる人が多い日にしよう。ただし、部長がゴルフレッスンに通っている水曜日は除いておいて。
 会費は3000円ぐらいね。でもアルコールを飲まない女性は2000円までにして。
 料理は徒歩10分以内の中華か和食。

 それだけいうとA係長は忙しそうにエレベーターの中に消えて行きました。
 実はS君、A係長が大の苦手なのです。とても指示が細かくて話を聞いているだけで頭が痛くなってしまいます。

■「原則と例外」の基本パターン

 たぶん、S君は、A係長だけでなく、条文を読むのも苦手なはずです。A係長の話し方と条文の規定方法は共通するところがあります。それは「まず原則を述べて、次にその例外を示す」という点です。その意味ではA係長の話し方は合理的なのかもしれません。一つ、典型例を見てもらいましょう。次の災害等の場合の時間外労働について定めた労働基準法33条1項では、原則が「本文」、例外が「ただし書」として規定されています。ただし書は「行政官庁の許可を受けていなくても事後届出でいい」という意味ですから、本文の「行政官庁の許可を受けて」の例外であることが分かります。

○労働基準法
(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)
第33条 災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
2・3 略

■項を変えての例外規定

 ただ、例外は「ただし書」で書かれるとばかり限りません。「項」を変えて、例外を規定する場合もまた多いのです。次の労働基準法33条3項も1項の例外を定めているといえます。話が複雑になって恐縮なのですが、実は1項の例外を定めた3項にもさらに、例外が定められています。そうです。「(別表第1に掲げる事業を除く。)」という部分です。「別表第1に掲げる事業」についてはそもそも3項が働かないというわけです。では、2項はどういう位置付けかというと、1項の例外ともいえる「ただし書」の場合のさらなる規定ということができるでしょう。こうした原則と例外の関係をひも解いて読めると、条文の正確な理解につながります。

■どこまでもA係長は‥

 しばらくすると、A係長がS君のところに戻ってきました。「ごめん、さっきの歓送迎会のことだけど、言い間違えていた」といってこう訂正しました。

水曜を除き、みんなの都合を聞いて参加できる人が多い日にしよう

 「あらかじめ都合を聞く日から水曜日を除いておくように」というのが係長の趣旨のようです。どこまでも条文のようなA係長でした。

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年1月にご紹介したものです。

吉田利宏 よしだとしひろ
元衆議院法制局参事
1963年神戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、衆議院法制局に入局。15年にわたり、法律案や修正案の作成に携わる。法律に関する書籍の執筆・監修、講演活動を展開。
著書に『法律を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)、『政策立案者のための条例づくり入門』(学陽書房)、『国民投票法論点解説集』(日本評論社)、『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規)、『判例を学ぶ 新版 判例学習入門』(法学書院、井口 茂著、吉田利宏補訂)、『法令読解心得帖 法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方』(日本評論社、共著)など多数。近著に『つかむ つかえる 行政法』(法律文化社、2012年1月発行)がある。