2014年03月31日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [43]『アメリカ企業には就業規則がない―グローバル人事「違い」のマネジメント』―鈴木雅一

 

国書刊行会 2013年9月


 日系・外資系銀行、外資系IT企業で人事の仕事に携わり、現在はコンサルティング会社と社会保険労務士事務所の代表を兼務し、外資系企業や海外に進出する日系企業をサポートしている著者による本です。

 タイトルを見て「そんなこと知っているよ」と思う人も多いかと思いますが、このタイトルは、日本企業とアメリカ(欧米)企業の雇用契約の在り方の違いの一例として挙げたものであり、雇用契約だけでなく、採用、給与、人事考課から、セクシュアルハラスメント、ダイバシティ・マネジメントへの対応、優秀人材の確保方法まで、アメリカを中心とする海外企業の人事労務と日本企業の人事労務の考え方や取り組みの違い、それぞれの法律的背景などについて解説されています。

 さらには、外国人と日本人の労働意識の違いなども、具体例をもって分かりやすく解説されていて、読者の中には、自分自身が外国人と仕事した際に経験したり感じたりしたことを、あらためて自らの中で体系的に整理・理解する助けになる人もいるのではないかと思われます。

 著者は、これからの日本企業に必要なのは、異文化を日本文化と融合させるという日本人がこれまで用いてきたプロセスではなく、日本という核はしっかりと保ちつつも、相手の文化はそのまま受け入れる「多様性への適応力」であるとしています。グローバル人事を成功させる秘訣(ひけつ)は「違い」のマネジメントにあり、自分と相手が違うということを受け入れてマネージすることが重要であるということです。

 そうしたマネジメントのポイントとして、海外の人事労務と日本型の人事労務との違いを紹介し、この「違い」の原因の一つとして、諸外国と比べて、労働基準法をはじめとする日本の労働法がユニークなものであることを指摘しています。また、労務管理における日本の常識が、海外では非常識となってしまう事例を紹介し、「違い」を認識することがグローバル人事の出発点であると説いています。

 グローバル人事を担うこれからの日本企業の人事部の在り方にまで踏み込んで書かれていますが、これらの考察に際して、具体的に裏付けとなるデータを掲げ、また、中国における労働法や労務管理について解説している箇所などに見られるように、法律実務に関する部分についてもきちんとフォローされています。

 グローバルビジネスの行方を見据えた啓発的・教養的要素を含みながらも、あくまでも実務家向けのものとして、実務に近いところで書かれている点が良いです。文章面では、学者や法律家の書いた本にありがちな教科書・マニュアル的なスタイルとは異なり、よくかみ砕かれた表現になっていて、内容的にも、自らの経験も含めた事例が豊富であることから、読み物を読む感覚で読めます。

 グローバル人事におけるトラブルを未然に防ぐ方法だけでなく、優秀な人材を有効に活用するためにはどのような労務管理を行えばよいのかといったこともアドバイスされています。実務レベルの話と啓発レベルの話がよくリンクされているため、今現在そうしたグローバル人事の実務に携わっている人にも、将来そうした業務に就くことを志し、対応に向けての心構えをしておきたいという人にもお薦めできる本です。
 
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年12月にご紹介したものです  

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー