日経プレミアシリーズ 2013年9月
本書によれば、未熟な大人が増加し、上司-部下間の関係構築を困難にしているとのことであり、上司の側は、経験を伝え、部下を育てるために、言うべきことを言っているつもりでも、部下の側は、上司の指示や注意が押しつけられて、こちらの言い分は聞いてもらえないという不満を持っていることがあるとのことです(著者はこれを「俺の話を聞け!」ハラスメントと呼んでいる)。
人間は、理屈ではなく感情で動くものであり、「聴く耳」を持たず、自分語りに終始する上司では、部下のやる気を引き出すのは難しいとのこと。そこで、著者が提唱しているのが、心理学の世界で今流行している「ナラティブ」です。ナラティブとは「語り」を意味し、上司の思いを伝えるというよりも、部下の思いを共有することで気持ちの交流を引き起こし、その結果、部下のやる気を引き出すことができるものであるとしています。
第1章「台頭するお子様上司」では、頼らないと拗(す)ねる、立ててやらないと拗ねる、できる部下が気に食わない、意見が毎回変わる、といった、大人として未熟な上司の具体例をいくつも挙げていますが、この部分を読んで「いるいる、こんな上司」と思う人は多いのではないでしょうか。
第2章「社員旅行に行きたい20代」では、今度は部下に当たる若者世代を俯瞰し、プライベートな世界で率直に語り合える関係性を作れない若者が増える中、自分のことを分かってほしい、認めてほしい、といった承認欲求と結びついた関係性の欲求が高まっていて、アフターファイブの“ノミュニケーション”などが退潮した今日、彼らには、職場のドライな人間関係が物足りなくなっていると分析しています。
第3章「幼稚園化する職場」では、メンツにこだわる上司と、権利意識ばかりが強い部下(若者)という、それぞれが抱える要因により、職場全体が“幼稚化”していることを指摘しています。そうした状況を踏まえた上で、第4章「やる気を引き出すのは『気分』」において、ナラティブの効用を説いていますが、この部分は、ナラティブの考え方の基本を説いた啓発的な内容となっています。
最終の第5章「お子様上司の処方箋」において、ナラティブ・コーチングの手法を紹介していますが、紙数の関係もあってか簡潔なものにとどまっており、細かいところまで指示するのではなく、気づきを促して、自分で考えさせるのが大切であるといったことは、これまでも言われてきたことのように思いました。本書全体を通しては、ナラティブの「技法」よりも「必要性」と「効用」を説いた啓蒙書のような印象を受けましたが、それほど新鮮味は感じませんでした。
むしろ、今日の職場で起きている世代間の認識のズレやコミュニケーション不全を、心理学というより世代論的な観点から分析してみせた本と言えるかと思います。その意味では“タイトルずれ”はしていませんが、「分析」に比重がかかった分、「処方箋」のほうがやや弱かったように思います。
すらすらと読めましたが、この本を読んだだけでナラティブを即実行するのは結構大変かも(ナラティブって意外と難しい?)。まあ、部下との関係性において、ナラティブということを意識してみる契機にはなるかもしれませんが。
※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年10月にご紹介したものです
【本欄 執筆者紹介】
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー