2013年11月22日掲載

Point of view - 第7回 吉田大樹 ―イクメンが必要なわけ

イクメンが必要なわけ

吉田大樹 よしだ ひろき
特定非営利活動法人ファザーリング・ジャパン 代表理事
1977年生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修了。
2003年4月~12年6月「労働安全衛生広報」「労働基準広報」(労働調査会発行)記者。労働関係の専門誌記者として、ワーク・ライフ・バランスや産業保健(過重労働・メンタルヘルスなど)の問題を精力的に取材。10年7月~ファザーリング・ジャパン理事を経て、12年7月より現職。内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会委員。3児(03、06、08年生まれ)の父親。
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職場にしがみつく労働者

 2009年に積極的に育児に取り組む男性を指す言葉として「イクメン」が流行語となり、男性の育児への関心度が高まった。
 当時、筆者は“ようやくこの流れが来たか”という印象を受けた。男女雇用機会均等法が1986年に、育児休業法(現・育児・介護休業法)も1992年に施行され、女性の就業継続を支援する法律ができたにもかかわらず、男性は依然として仕事(職場)にしがみついたままであった。
 働き方の見直しを進めるため、国は2000年代に入ってから、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を使い始めたが、労働者(特に男性)には十分響いているとは言えなかった。ワーク・ライフ・バランスという言葉に「仕事と生活の調和」という訳語が充てられたわけだが、「生活」と聞いただけではピンとこない人のほうが多かったのではないだろうか。「生活」が何を示すのか明確ではなかったために、実際に行動に移す人は少なく、言葉倒れになりかけていた。
 仕事にしがみついている人に対しては、家(生活)に帰るための理由が必要となる。逆に言えば、これまでは家に帰るための理由がなかったから仕事にしがみついていたとも言える。家に帰れば、妻が家事・育児をこなしてくれるため、早く帰る必要がないものと考えられてきた。

イクメンはあくまで過渡期の言葉

 そこで登場したのが、「イクメン」という言葉だ。育児をしっかりとこなすためには、家に帰らなければならない。これは明確な帰る理由と言える。その言葉が流行語として世に広まったことは評価できよう。しかし、これは「流行」にとどまらせてはならないのだ。父親の子育てを「定着」させるための、あくまでも過渡期の言葉ということを忘れてはならない。
 家に早く帰ることは妻の負担を軽くするためだけではなく、子どものためでもある。母と子という関係だけではなく、父と子という関係も根付かせることで、より多く愛情が注がれ、子どもにとっての生きる喜び(自己肯定感)も増大していく。
 「いまは仕事が忙しい。仕事が落ち着いたら子どもに愛情をたっぷりと注いでやりたい。子どもはいつか分かってくれるはず」などと思ってはいないだろうか。子どもの成長は早い。小さければ小さいほど、日々成長である。基本的にその瞬間を逃しては取り戻すことができないと考えたほうがいい。時間をかけて触れ合えなければ、子どもはなつかず、父と子の信頼関係を構築することもできない。
 2000年代に入って共働き世帯が専業主婦世帯よりも多くなったにもかかわらず、依然としてその動きが変わることはなかった。それはなぜか。出産退職してしまう女性がまだまだ多いという現実だ。再就職をしてもそれは元の正社員の仕事ではなく、多くがパートであり、非正規労働者となってしまうために、夫【正規】>妻【非正規】という構造となり、【非正規】のほうは結局家事・育児を抱え込まざるを得なかった。

イクメン企業アワードの創設

 こうした中で、厚生労働省が男性の育児を盛り上げ、働き方の見直しにつなげようと、2010年6月に立ち上げた「イクメンプロジェクト」。今年の春から、筆者もその推進委員会のメンバーとなった。座長もファザーリング・ジャパン前代表理事の安藤哲也氏(現・NPO法人タイガーマスク基金代表理事)から、駒崎弘樹氏(認定NPO法人フローレンス代表理事)へとバトンタッチし、若返りが図られた。そのイクメンプロジェクトが今年度の目玉事業に位置づけたのが「イクメン企業アワード」の創設だ。
 今回グランプリを受賞したのは、「花王」(東京都)と「医療法人社団三成会」(福島県)の2社。花王は、男性の育児休業取得率が4割を超え、平均取得日数が1週間を超えていることなどが評価された。一方、三成会は200名ほどの規模ながら、男性の育児休業取得者が5割に達し、休業日数も1カ月以上が6割を超えていることなどが評価された。
 今回は初めてだったこともあり、世間的な認知度としてはまだまだだったかもしれないが、こうした取り組みが社会に根付き、数年後には「イクメン企業アワード」という賞もなくなることを希求してやまない。
 ※厚生労働省「イクメンプロジェクト」ホームページはこちらから

イクメンからイキメンへ

 こうした取り組みが実を結びイクメンが増えること自体は喜ばしいことだが、それだけでとどまるのは実は非常に惜しい。子どもとの関わりが積極的な父親は、地域への関わりも増えてくる。イクメンの進化形がイキメン(地域に関わる男性)だと言える。子育て中の男性がもっと地域に関わることで、地域がもっと活性化されることになる。
 これは男性自身の人生にとってもプラスなこと。終身雇用という状況の中で職場にしがみついていることで、自分の住処(すみか)である地域には誰も知り合いがいないという状態に陥り、定年後は寂しい老後を送るというケースも多い。妻に先立たれてしまえば、家事もまともにできず、行く末は「孤独死」が待っているかもしれない。
 人生をもっと楽しむためには、いまこそ「イクメン」が必要なのだ。