2013年12月25日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [38]『成長する管理職―優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』―松尾 睦


東洋経済新報社 2013年7月



 現場を支えるミドルマネジャーの成長を支援することが、人事部の今日的な重要課題となっていますが、本書によれば、マネジャーの成長プロセスの研究はあまり進んでいないとのことです。確かに、管理職研修などでも、最後は「マネジャーの成長は経験で決まる」という結論で締めくくられることがありますが、その「経験」の具体的内容は、あいまいなままにされてきたようにも思います。

 「経験学習」の研究者による本書は、「経験はどのように能力と関係しているのか」「経験はどのような要因によって決定されるのか」という二つの問い掛けの下、日本企業12社の課長・部長の調査データを分析することで、マネジャーの経験学習のプロセスを明らかにすることを狙いとしています。

 そして、それらの定性・定量的調査の結果分析を通して、「経験はどのように能力と関係しているのか」という第1の問いに関しては、「部門を超えた連携/変革への参加/部下育成」という三つの経験が複合的に「情報分析力/目標共有力/事業実行力」を高めていることが分かったとしています。

 また、「経験はどのような要因によって決定されるのか」という第2の問いに関しては、「過去の経験/目標の性質/上司の支援」の三つが影響を与えていることが分かったとし、このうち、経験に最も強く影響していたのは、「過去の経験」であるとのことです。例えば、部長時代に部門連携の経験を積んでいる人は、担当者時代や課長時代にも部門連携の経験を積んでいる傾向が見られたとしています。
 つまり、早い時期に上記三つの経験を積んでおくほど、その後も同様の経験が積みやすい「経験の好循環」に入ることができる、逆にいうと、この循環に入れないマネジャーは成長しにくくなるとしています。

 では、この好循環に入るにはどうしたらよいのかというと、そのためには、挑戦や好奇心を重視する「学習志向の目標」と、目標達成を重視する「成果志向の目標」を持つことであり、学習志向や成果志向の高い人は、部下育成の経験を積む傾向が見られたとしています。

 また、経験の好循環に入るためのもう一つの要因である「上司の支援」に関しては、特に、通常は会うことが難しい社内外の上位者やキーパーソンを紹介してもらい、対話する機会をもらっている人ほど、連携や変革の経験が見られたとしています。

 本書が示すこれらの知見に触れて、実際に自分がこれまで見てきた「成長する管理職」像と符合する点が多いと思われる読者も多いのではないでしょうか。巻末には補論として「マネジャーの育成方法」と「マネジャーの経験学習の診断方法」を付すなど、実務への落とし込みもなされています。

 基本的には研究書というスタイルをとっていますが、マネジャーを育成する役割を担っている人はもちろんのこと、マネジャーとして成長したいと思っている人も読者層として想定しており、詳しい統計分析方法などはコラムや参考資料としてまとめ、一般のビジネスパーソンは読み飛ばしてもよいとしています。

 本書を通して「経験学習」というものを見つめ直し、マネジャーの成長を促すにはどうすればよいかを改めて考えてみるのも良いのではないかと思います。
 
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年9月にご紹介したものです 

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー