2013年11月28日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [36]『LEAN IN(リーン・イン)―女性、仕事、リーダーへの意欲』―シェリル・サンドバーグ

 

日本経済新聞出版社 2013年6月


 本書の著者は、米国財務省で首席補佐官を務め、グーグルでオペレーション担当副社長などを歴任した後、フェイスブックにスカウトされ、今現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人です。

 こうした著者の華々しい経歴から、スーパーウーマンが自らの成功体験を基に書いた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読んでみると、自らのキャリアが恵まれたものであることを率直に認めつつも、現在の地位に就くまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています。

 また、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを多くのデータや文献から裏付けるとともに、その原因を、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性たちがそうした内面の壁を突破するにはどうしていけばいいかを考える内容となっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「五つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害を取り除くためにどうすればよいかということに関して多くのページを割いており、報酬の交渉をする際のポイントや夫を協力的なパートナーにするコツ、子供が生まれるまさにその時まで仕事すべきであるというアドバイスなど、いずれも具体的なものばかりです。

 プレゼンテーション・カンファレンスとして知られる「TED」で著者が講演した際の話がでてきますが、著者が本書を著すきっかけとなったのは、TEDでの彼女の「なぜ女性のリーダーは少ないのか?」と題されたトークの反響が大きかったためで(周囲はなぜ彼女は成功したのかを聞きたがっていたが、彼女はあえてこのテーマを演題に選んだ)、本書もアメリカでベストセラーとなり、女性のキャリアについて大きな論争が起きているとのことです。

 著者は本書を、自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい――そう考えている女性に向けて書いたそうです。本書には、結婚や出産といったライフイベントを機にキャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力の大きさを感じます。

 女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であるとともに、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。また、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多く含んだ本であると思います。
 
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年9月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー