2013年08月27日掲載

新任担当者のための労働法セミナー - 第16回 割増賃金(労働基準法37条)(1)


下山智恵子
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士

今回のクエスチョン

Q1 割増賃金を計算する際の、月給者の1時間当たりの割増賃金の計算方法を教えてください


A1 月給額を所定労働時間数で除して計算します。所定労働時間数が月によって異なる場合には、1年間における1カ月平均所定労働時間数で除して計算します(労働基準法施行規則19条)


 月給者の1時間当たりの割増賃金を計算する際には、月給額を月における所定労働時間数で除して計算します。
 これを簡単に計算式にすると、次のようになります(計算時に除外できる手当は次回説明します)。

 (基本給+手当)÷1カ月所定労働時間数    


 なお、時間給、日給、出来高払いの場合、1時間当たり賃金額の計算式は次のとおりです[図表1]

[図表1] 時間給、日給、出来高払いの場合の1時間当たり賃金の計算方法

 時間給制  時間給
 日給制  日給÷1日所定労働時間数
 (日によって所定労働時間数が異なる場合は、1週間における1日平均所定労働時間数)
 出来高払制  算定期間の賃金総額÷算定期間の総労働時間数


 1時間当たりの賃金に割増率および労働時間数を掛けると、割増賃金を算出することができます。

【解説】

■時間外労働には1.25倍を支払う

 時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合には、使用者は割増賃金を支払わなければなりません。
 時間外労働に対しては、通常の賃金の2割5分以上の賃金を支払うことが義務づけられています。ここでいう「時間外」とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超える時間であり、変形労働時間制を採用しない会社であれば、1日8時間または週40時間を超える時間です。
 例えば、1日の所定労働時間が7時間の会社で、法定労働時間である8時間に満たない1時間の時間外労働については、割増賃金を支払う義務はなく、通常の賃金(1倍)を支払えば足ります。

■1カ月に60時間を超える時間外労働の割増率は1.5倍

 平成22年(2010年)4月からは法改正により、1カ月60時間を超える時間外労働に対しては、5割以上の割増賃金を支払うことが義務づけられました[図表2]。この割増率が適用されるのは、1カ月当たり60時間を超えた時点より後の時間外労働だけです。「1カ月」の起算日は、賃金締切日に合わせると管理しやすいでしょう。
 「60時間」を計算する際の労働時間には、法定休日の労働分は含まれませんが、法定外休日の労働分は含まれます。
 中小企業については、この割増賃金率(1.5倍)の適用が除外されており、平成25年(2013年)4月以降に改めて検討されることになっています。

 

■法定休日は1.35倍

 法定休日に労働させた場合は、通常の賃金の3割5分以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。法定休日とは、労働基準法35条で1週1日または4週4日と定められた休日です(第2回をご参照ください)。
 法定休日ではない、会社が個々に定める所定休日の労働は単なる時間外労働ですから、2割5分以上の割増賃金を支払えば足ります。
 例えば、完全週休2日制で土曜日、日曜日が休日、1日8時間労働の会社を考えてみます。就業規則で日曜日が法定休日と定められている場合、土曜日は法定休日ではありません。この場合、土曜日に働かせると週40時間の法定労働時間を超えるので時間外労働となり、2割5分以上の割増賃金の支払いが必要です(前述のとおり、1カ月60時間を超える時間外労働の割増率は5割以上です)。

■深夜労働はさらにプラスする

 午後10時から午前5時までの労働を深夜労働といいます。この時間に働かせた場合は、通常の賃金の2割5分以上の割増賃金を支払う必要があります。時間外労働が深夜に及んだ場合や休日労働が深夜に及んだ場合は、それぞれの割増賃金に深夜労働の割増賃金を加算して支払わなければなりません。

 まとめとして、割増賃金の基本パターンを示しておきます[図表3]


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《復習&応用問題》

Q2 出来高払いの場合の時間外労働割増賃金の計算方法を教えてください


A2 出来高払い制の場合、「1」を支払う必要はなく、「0.25」倍で足ります

 出来高払い制の割増賃金は、次の計算式で計算します。

 (算定期間の賃金総額÷算定期間の総労働時間数)×割増率×時間外労働時間数    


 出来高払い制においては、通常の労働に対する「1.0」の部分は出来高払い部分で支払われていると考えられるため、通常の賃金の1.25倍を支払うのではなく、0.25倍で差し支えありません。同様に、休日労働に対する割増率も1.35倍ではなく、0.35倍です(昭23.11.25 基収3052ほか)。
 固定給に対する時間外労働割増賃金は1.25倍、出来高給に対する時間外労働割増賃金は0.25倍ですから、固定給+出来高給という賃金構成の場合、出来高給部分が多いほうが時間外労働割増賃金は低くなります。

Q3 1カ月当たり60時間を超える時間外労働をした労働者には、割増賃金ではなく、「代替休暇」を取得させたいと思っています。可能でしょうか?


A3 代替休暇の取得を強制することはできません

 平成22年施行の改正労働基準法により、1カ月60時間を超えた場合に支払う5割以上の割増賃金と、改正前の2割5分との差分について、その支払いに代えて「代替休暇」を付与することが認められました。
 代替休暇を付与する場合には、会社と過半数を代表する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で労使協定を締結する必要があります。労使双方がこの制度に同意しなければ代替休暇を付与することはできません。
 また、労使協定があったとしても、個々の労働者に代替休暇の取得を強制することはできません。

※本記事は、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2012年7月に掲載したものです


こんなときどうする? Q&Aでわかる! 労働基準法
  特定社会保険労務士 下山智恵子 著/労務行政
  A5判・256頁・1,782円

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●労働時間、解雇、賃金など、問題となりがちな項目について、労働基準法の定め・取り扱い等を図解入りで解説

 第1章  労働基準法とは?
 第2章 「労働時間」の基本を押さえる
 第3章 「賃金」の基本を押さえる
 第4章 「休暇・休業」の基本を押さえる
 第5章 「妊娠~出産~育児関連、年少者」の基本を押さえる
 第6章 「退職・解雇」の基本を押さえる
 第7章 「労働契約・就業規則」の基本を押さえる

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下山智恵子 しもやまちえこ
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士

 大手メーカー人事部を経て、1998年に下山社会保険労務士事務所を設立。以来、労働問題の解決や就業規則作成、賃金評価制度策定等に取り組んできた。 2004年には、人事労務のコンサルティングと給与計算アウトソーシング会社である(株)インプルーブ労務コンサルティングを設立。法律や判例を踏まえたうえで、 企業の業種・業態に合わせた実用的なコンサルティングを行っている。著書に、『労働基準法がよくわかる本』『もらえる年金が本当にわかる本』(以上、成美堂出版)など。