Chapter6
年休取得の改善を図るための取り組み
それでは、具体的に年休取得の現状改善を図るためには、どのような取り組みが有効なのだろう。先に[図表6]で見たように、「年休が取りづらい」状況を招いている要因はさまざまであり、一様な対策で各社の異なる問題・事情を改善するのは容易ではない。
それでも一つ、最も大きなポイントに挙げられるのは、「仕事の回し方をどのように改善するか」という点であろう。言い換えれば、休暇(ときには休職)で職場のメンバーがだれか欠ける状態、むしろそれが通常の状態として仕事がうまく回っていくような体制・仕組み作りを進めていくことが第一の条件と考えられる。
どのような長期休暇、連続休暇の仕組みを準備しても、それを利用した途端に業務が大幅に停滞するようでは機能させることはできない。また、取得促進の号令を強めても、自分が欠けた時の業務の正常な流れが想定できなければ、お互いへの気兼ねは払拭できないだろう。もちろん、業務量や目標値に対して、物理的・人的リソースが不足している場合は、それを補う手だてがなければ改善は難しい。そうした手だてを取る必要があるか否かを含め、コストや個人にかかる負荷を踏まえて改善に踏み出すためには、経営視点からの業務運営改善へのコミットメントが重要なドライバーとなるだろう。
業務運営改善の目的(もちろん休暇促進のみにはとどまらない)を管理職と職場のメンバーが共有し、それぞれ必要なアクションプランを検討する。管理職は目標に即した業務計画と各人の役割の明確化、それを踏まえた業務配分の調整、PDCA の展開が優先順位の高いアクションとなるだろう。また、各メンバーは担当業務内容と進捗状況の“ 見える化” に取り組むとともに、フォローし合える体制作りを進めるうえで支障となる部分、具体的にはムダ・非効率の排除、特定の人のやり方・ノウハウに紐ついている業務の進め方の見直しを検討することが求められると思われる。結果的に、職場内のメンバーで代替できない場合は、管理職自身が一時期フォローに当たる、あるいは職場の枠を超えて他部署に支援を仰ぐといった手だての検討も必要となるかもしれない。
こうしたプロセスを、経営層・管理職・メンバーが共有しながら実際にアクションしていくことが意識改革を進めるうえでも必要となってくるだろう。
今回の調査で尋ねた「どのような取り組みを行えば現状がより良くなると思うか」という設問への回答も、こうした流れにおおむね符合していると思われる[図表10]。全体の集計結果と、休暇が「取りづらい企業」の回答を抽出した結果を対比して見てみよう。
[図表10]自社の年休取得をめぐる現状について、どのような取り組みを行えばより良くなると思うか(複数回答)
選択肢に挙げたうち、「全体」「取りづらい企業」のいずれも以下の三つが上位3 位となった。
(1)日常業務のムダを省くなど、業務効率化・生産性向上の取り組みを進める
…全体47.2%・1 位、取りづらい企業46.3%・2 位
(2)メンバーが不在の時を想定したフォローの体制や役割分担をはっきりさせる
…全体33.8%・2 位、取りづらい企業41.5%・3 位
(3)周囲に気兼ねなく休暇を申請・取得できるように社員へ意識改革を働き掛ける
…全体32.9%・3 位、取りづらい企業48.8%・1 位
上位の中でも、(3)の意識改革の働き掛けについては、両者の割合の差が約16 ポイントに上り、特に「取りづらい企業」で強く意識されている。この点は、「年休を取りづらいと感じる理由」(前掲[図表6])で、「やむを得ないとき以外に休みを取る人があまりいないので、休暇を申請するのに気兼ねがある」を選んだ割合が51.2%と過半数に上っていることと関連があると見られる。
また、回答の割合はやや下がるものの、「部下の年次有給休暇の取得状況を管理職に対する人事評価の要素に加える」は、「全体」の回答割合13.4%に対し、「取りづらい企業」は24.4%とやや大きな開きが見られる。やはり、業務運営改善のキーマンとして、管理職がさらに休暇取得の促進に意を払うことを求められている結果と言えるだろう。
こうした回答の中で、休暇制度そのものをさらに拡充することを支持する意見は比較的少ない。ここでは半日年休、病気などの場合に利用できる年休以外の休暇、年休の付与日数増を選択肢に加えたが、回答はいずれも10%にも満たない。現状の改善を図る上で、業務運営の見直しや意識改革を後回しにして制度整備を進めても効果は低い、という見方の現れと言ってよいだろう。
なお、年休および年休以外の特別休暇制度について、今後の導入・見直し意向を尋ねた結果は[図表11]のようになっている。「年次有給休暇をより柔軟に取得できる制度・ルールの導入」(21.0%)、「年次有給休暇を計画的に取得する制度・ルール等の導入」(19.0%)など、年休の取り方を工夫する仕組みについて2 割前後が導入意向を示しているものの、その他については大半が「実施予定はない」と答えている。
[図表11]年休ほか休暇制度に関する今後の見直し・新設予定
INDEX
Introduction 調査のポイントと目的
Chapter1 企業にとっての休暇取得促進を図るメリット
Chapter2 2011年度の年次有給休暇取得率
Chapter3 人事担当者から見た自社の「年休の取りやすさ」
Chapter4 休暇取得に対する管理職の意識と対応
Chapter5 自社の年休取得についての改善意向
Chapter6 年休取得の改善を図るための取り組み
Chapter7 年休取得改善への取り組みを支援する手だて