2013年08月30日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [31] 『労働法の基本』―山川隆一

日経文庫 2013年6月


 平成20年3月に労働契約法が施行された際、大学教授の山川隆一氏の『労働契約法入門』と弁護士の浅井隆氏の『労働契約の実務』が日経文庫からほぼ同時に刊行されました。今度は、その労働契約法の平成24年改正に伴って、同じ日経文庫で浅井氏の『Q&A 管理職のための労働法の使い方』が今年3月に刊行され、それに続くかのように山川氏による本書が刊行されました。

 今回の浅井氏と山川氏の著書を比べると、浅井氏のほうは「職場の管理職」向けで、山川氏の本書は「初学者」向け(人事部の初任者なども含まれると考えてよい)と、多少読者層を変えてきているようです。

 山川氏の前著『労働契約法入門』は、「労働契約法」に的を絞ったものと言うより労働法全般の入門書として読めるもので、その分やや“タイトルずれ”している印象もありました(労働契約法だけだと規定を置いた事項が限られているので、労働基準法などについても取り上げ、個別的労働関係法全般を概観するものとしたとのこと)。本書は前著『労働契約法入門』を改訂し、労働契約法改正など最近の法改正の状況を織り込みつつ、個別的労働関係法の解説を充実させるとともに、労働組合法など集団的労働関係法における法的ルールについても取り上げたとのことです。

 その分、タイトルずれが無くなって、「入門書」としてスッキリしたという感じでしょうか。労働法とは何かということから始まって、労働契約の基礎と労働条件の決定・変更、人事をめぐる法的ルール、労働契約の終了と続き、労働条件(賃金・労働時間・労災補償)、さらに、雇用平等・ワークライフバランス、さまざまな雇用形態といった今日的テーマを取り上げ、最後に、労働組合と労使関係についての解説がきています。

 工夫されていると思ったのは、本文の各所にQ&A形式の「チェックポイント」が設けられていて、自学自習ででも理解度を確認することできるようになっていることです(質問の解答は巻末にまとめられている)。

 例えば第1章の章末には次の四つの問いがあります。
Q1 労働基準法の定める基準を下回る労働条件も、労働者が自由な意思で合意した
   場合には有効となる
Q2 使用者が労働契約法の規定に従わない場合、労働基準監督官が是正勧告をする
   ことがある
Q3 労働審判制度は、労働組合が使用者に対する権利を実現するためにも利用できる
Q4 都道府県労働局における個別労働紛争解決制度では、当事者に対して法に従った
   紛争解決を強制することはできない

 知っている人は知っているけれど、知らない人には意外と知られていないといった感じの問題が多いようです。設問文自体が本文テキストの延長または要約のようにもとれる良問が揃っていると思います。ベテランの人事パーソンは、部下である人事部の初任者等に本書を薦める前に、とりあえずは自身でこれらの設問に解答してみましょう。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年6月にご紹介したものです 
【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー