2013年07月05日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [29] 『グローバル人材の新しい教科書―カルチュラル・コンピテンスを伸ばせ!』―ベルリッツ・ジャパン

日本経済新聞出版社 2013年4月


 語学サービス提供会社のベルリッツ・ジャパンによる本であり、本書にある「カルチュラル・コンピテンス」を伸ばす手法は、ベルリッツの子会社が開発したもので、世界中の組織や個人によって実務に適用されているとのことです。

 各企業がグローバル人材の育成に注力している中、「英語力はそれなりにあるはずなのにうまくいかない」との悩みが多く聞かれるとのこと。本書では、この問題は語学力ではなく、文化の衝突や対立に対処できない「カルチュラル・コンピテンス」の不足から生じているとしています。「カルチュラル・コンピテンス」とは、こうした文化の違いを活用する力のことで、英語に不自由しない人でも、不断の努力をして身につけるものであるとのことです。

 通常の異文化研修は、いわば「知識」を得るための研修であり、それもカルチュラル・コンピテンスの一部ではありますが、本書が説いているのは「知識」(カルチュラル・ナレッジ)の重要性や必要性だけではなく、文化を生かして積極的に活用するための具体的なスキル(カルチュラル・スキル)も含めてです。

 第1部から第2部の第4章までは、「カルチュラル・コンピテンス」がどういうものかを詳しく説明しています。第2部の第5章からは、M&Aに伴い、中年にして初めてチームリーダーとして海外に派遣されることになった「森山 豊」という架空の人物の経験を通し、日本人が海外でビジネスを行っていく上でどのように「文化」を理解し、対応していったのかというケース・ストーリーとなっています。第3部では、ベルリッツが実際に行った研修の事例を紹介しており、会社が抱える「文化」の問題がより具体的に記されています。

 「グローバル人材」について書かれた本は、著者自身の経験に基づくものが多く、それはそれで参考になったりもしますが、日系企業から多国籍企業の経営者に転身した人や(その逆もあるが)、証券マンから国際金融アナリストに転身したといった人など、著者の経歴の華々しさに、読む側としてはちょっと引いてしまうことが少なからずあります。また、そこで語られる内容も、著者個人の経験や価値観が色濃く反映されたりもしているように思います(良書もあるが、独立したことに伴う名刺代わりの本だったりすることも)。

 それらの本を多く読むのも悪いとは言いませんが、やや非効率かも。その点、本書は、「教科書」と銘打つだけあって、「カルチュラル・コンピテンス」の概念がよく整理されており、さらに、「森山 豊」という人物の“奮闘記”とも言えるケース・ストーリーが実に活き活きしていて、小説を読むように楽しく読め、また、その事例を通して、最初に述べた理論をおさらいするような形になっていて、とても分かり良いものでした。

 国による文化の違いだけでなく、日本人であろうと外国人であろうと同国人であってもその中で個人差があることにも着眼しており、また、相手の価値観や文化に合わせるだけでなく、自国の文化や自分自身の価値観を主張し、相手に理解させることの重要さを説いている点もいいです。

 ビジネス文化の異なる人たちとの間での問題解決の助けになるように書かれた本ですが、まえがきに「日本人同士の仕事であっても仕事の進め方に悩んでいる方には有益であろう」とあるのは、まさにそのとおりかと思われました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年5月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー