2013年03月06日掲載

人事担当者のための法律読みこなし術 - 第11回 目的規定

 


吉田利宏  よしだとしひろ 元衆議院法制局参事


■法律の第1条とは?

 「○○法の第1条にはどんなことが規定されているでしょうか?」。もし、誰かにそんな質問をされたら、「『目的』が規定されている」と答えましょう。たぶん、8割くらいの確率で正解です。
 古い法律を除いて、たいがい、法律の第1条には、その法律がどのようなことを目的として定められたものかを示す規定が置かれています。こうした規定を「目的規定」といいます。

○最低賃金法
(目的)
第1条 この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

■目的規定の「お作法」

 この目的規定の書き方にはお作法というべきものがあります。近ごろは、ほとんどがこのお作法を踏まえた書き方がされています。
 そのお作法とは、①手段、②目的、③究極の目的の順で規定するというものです。まずは、その法律に規定する目的実現のための「手段」を規定します。そして、その手段で実現しようとする「目的」を明らかにします。さらに、その目的を実現することで社会にどのようなインパクトを与えようとするのかという「究極の目的」を規定します。究極の目的が書きにくいときには、手段と目的の二つの要素から構成される場合もありますが、目的規定はこの三つの要素を意識して書かれています。上の最低賃金法に、この3要素を当てはめてみると、次のようになります。

■目的規定の使い方

 法律の読み解きテクニックからいえば目的規定は二つの意味で役に立ちます。まず、一つは、目的規定は条文の解釈を考える上で大きな目安になるということです。目的規定は会社でいえば「定款」に当たります。会社が定款の範囲内で業務を行えるように、法律は目的の範囲内で存在します。つまり、一つひとつの条文の解釈は目的規定を意識しながら行うことになるのです。
 目的規定のもう一つの利用方法は「目次代わりに使える」ということです。説明するより実際の条文を見てもらったほうが早いかもしれません。
 次の条文は家内労働法の目的規定です。ここには、目的を実現しようとする手段として、「工賃の最低額、安全及び衛生その他家内労働者に関する必要な事項を定めて」と規定されています。
 その家内労働法の目次と見比べてみてください。目的規定に並べられている順に実体的規定も置かれていることが分かります。このことを知っていれば、たとえ、目次のない法律であっても、実体的規定の順序や内容の察しがつくというものです。




※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年2月にご紹介したものです。

吉田利宏 よしだとしひろ
元衆議院法制局参事
1963年神戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、衆議院法制局に入局。15年にわたり、法律案や修正案の作成に携わる。法律に関する書籍の執筆・監修、講演活動を展開。
著書に『法律を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)、『政策立案者のための条例づくり入門』(学陽書房)、『国民投票法論点解説集』(日本評論社)、『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規)、『判例を学ぶ 新版 判例学習入門』(法学書院、井口 茂著、吉田利宏補訂)、『法令読解心得帖 法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方』(日本評論社、共著)など多数。近著に『つかむ つかえる 行政法』(法律文化社、2012年1月発行)がある。