2013年01月15日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [19] 『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』―伊賀 泰代


ダイヤモンド社 2012年11月



 コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーで採用マネジャーを12年務めたという著者による本です。就職超難関企業と言われるマッキンゼーの「採用基準」は、世間一般には、地頭のよさや論理的思考力が問われると思われているようだがそれは大きな誤解である――として、そうした定説をきっぱりと否定しています。

 マッキンゼーが求めているのは、分析が得意な人でもなければ優等生でもなく、「将来のリーダーとなる人」であるとのことです。なぜならば、問題解決に不可欠なのはリーダーシップであり、また、リーダーシップは全員に必要であると考えているからとのことです。

 最終的に正式なリーダー職に就くのは1人だとしても、組織の構成員全員が多彩なリーダー体験を持っていることが重要であり、人はリーダー体験を積むことによって「高い成果を出せるチームのメンバー」になれる。それが、マッキンゼーにおける採用に際しての考え方であり、マッキンゼーに限らず外資系企業の多くが、すべての社員に高いリーダーシップを求めている――とのことです。

 転じて日本の企業に目をやれば、リーダーシップについて問われる機会はごく限定的で、30歳前後になってもそれまでリーダーシップについて問われた経験がないといった社員がいたり(確かに、人事考課の要素などにおいて、若年層にはリーダーシップを問わない企業も多いかも)、あるいは、管理職研修にリーダーシップに関する研修が織り込まれていなかったりもするとのこと。

 外資系企業のリーダーは成果を生み出すことを求められるが、日本の場合は組織の「和」が優先されると――。以下、日本企業と外資系企業におけるリーダーシップの捉え方の違いを、時に文化論的なレベルまで敷衍(ふえん)させて、分かりやすく説明しています。

 ややパターン化された外資系企業と日本企業の対比のさせ方ではあるものの、マッキンゼーに入社するためのノウハウ本になっていない点は好感が持てます。ただし、採用担当者が期待するような、採用時に応募者のリーダーシップを探るための方法論についてはそれほど突っ込んで書かれているわけではなく、「採用基準」の本というより、キャリアの入り口にある人をメインターゲットとした、「リーダーシップ」について書かれた本であると言ってもいいかもしれません。

 今の日本に求められるのはリーダーシップを持つ人間である、というのが本書の根源的なメッセージであり、マッキンゼー流のリーダーシップの学び方(学ばせ方)についても書かれています。

 書かれている内容自体は特に奇抜なことを述べているわけではなく、若年層からリーダーシップが求められるという帰結への導き方は、すんなり腑に落ちるものでした。

 マッキンゼー礼賛がやや気にはなりましたが、採用選考時に、応募者のリーダーとしての資質というものをより意識してみるのも大事かなと思った次第です。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年12月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー