下山智恵子
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士
今回のクエスチョン
Q1 事業場外労働のみなし労働時間制とは、どのような制度ですか?
A1 事業場外で働いた時間の算定が難しいときに、所定労働時間または通常必要とされる時間働いたものとみなす制度です
労働者が事業場外で働く場合には、何時から何時まで働いたのか、どのくらい休憩していたのかなどを会社が把握することは困難です。事業場外労働のみなし労働時間制は、「労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間または通常必要とされる時間を労働したものとみなす」ものです。営業での外勤や出張の際などにこの制度が使われています。
【解説】
■労働時間を算定できれば使えない
この制度は、「(1)事業場外で業務に従事し、かつ、(2)上司の具体的な指揮命令が及ばず労働時間を算定することが困難な業務である」場合に使うことができます。そのため、事業場外での業務であっても、上司が同行するなど使用者の具体的な指揮命令が及んでいる場合は、労働時間を算定することが可能であるため、認められません。
具体的には、通達により次の場合は制度が適用されないこととなっています(昭63.1.1 基発1)。
(1)何人かのグループ行動で、その中に労働時間の管理をする者がいる場合
(2)携帯電話などで随時上司の指示を受けながら働く場合
(3)事業場で訪問先や帰社時刻など当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに働き、その後帰社する場合
最近は、誰もが携帯電話を持つようになりました。携帯電話で随時上司の指示を仰ぎ、上司がすべての行動を把握しているのであれば上記(2)に該当し、認められません。しかし、緊急時のみ連絡するのであれば、(2)には該当しないと考えられます。
なお、(1)~(3)に該当するため事業場外みなし労働時間制が適用されない場合は、原則どおりに実際に労働した時間で算定します。
■「所定労働時間」または「協定した時間」働いたものとみなす
事業場外労働みなし労働時間制は、「みなし時間」の取り扱いによって必要な手続きが異なります[図表1]。
(1)所定労働時間を働いたものとみなすとき
労使協定の手続きは必要ありません。就業規則に定めた所定労働時間を働いたものとみなし、時間外労働は発生しません。
(2)その業務をするためには通常、所定労働時間を超えて働くことが必要であるとき
「通常必要とされる時間」を働いたものとみなし、労使協定でその時間を定めます(労使協定は必須ではありませんが、実態に即した労働時間の算定が行われるためには、できる限り労使協定を締結することが望ましいと言えます)。また、通常必要とされる時間が法定労働時間を超える場合は、その時間を定めた労使協定を労働基準監督署へ届け出る必要があります。36協定に付記して届け出することもできます。
いずれの場合も、労働時間制度として就業規則に記載することが必要です。
■労働時間の一部を事業場内で労働したとき
営業社員が外勤から帰社して、事業場内で資料を作成することがあります。このように、労働時間の一部を事業場内で労働したときの労働時間の取り扱いについては、通達によって次のように示されています。
まず、所定労働時間労働したものとみなす場合について、通達は、「労働時間の一部について事業場内で業務に従事した場合には、当該事業場内の労働時間を含めて、所定労働時間労働したものとみなされる」としています(昭63.1.1 基発1)。
一方、所定労働時間を超える「通常必要とされる時間」働いたものとみなす場合は、そもそも、みなし労働時間制による労働時間(=労使協定)の対象となるのは、事業場外で労働した部分のみです[図表2]。事業場内で労働した時間については対象にならず、別途把握しなければなりません。そして、労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、事業場外で労働したものとみなす時間と、別途把握した事業場内での時間の合計になります(昭63.3.14 基発150)。
《復習&応用問題》
Q2 事業場外みなし労働時間制で休日労働についての考え方を教えてください
A2 休日の考え方は、事業場外みなし労働時間制の適用を受けない一般の労働者と同じです
事業場外みなし労働時間制が適用される労働者であっても、休日についての法規制からは除外されません。休日に労働し、実際に働いた時間が算定できる場合は、その時間を労働したとして、賃金を支払う必要(法定休日の場合は休日割増賃金の支払いも必要)が生じます。
また、休日に当たる日に事業場外で勤務し、実際に労働した時間を算定することが困難な場合は、事業場外みなし労働時間制の適用を受ける通常の労働日と同じ時間を働いたものとみなして賃金を支払う必要が生じます。
Q3 当社では、営業社員には時間外労働手当が付かない代わりに、営業手当5万円を支払っています。問題ありますか?
A3 営業手当が時間外労働手当に相当することを就業規則に定めておく必要があります。また、実際に計算した時間外労働手当の金額が、営業手当の額を上回った場合は、差額を支払う必要があります
事業場外労働みなし労働時間制が適用になる場合でも、次のように時間外労働手当の支払いが必要となるケースがあります。
(1)みなし時間(通常必要とされる時間)が所定労働時間よりも長いとき[図表3]
この場合、日ごとに所定労働時間を上回る部分が時間外労働になりますので、時間外労働手当を支払う必要があります。ただし、みなし時間が法定労働時間を超えない場合は、割増賃金の支払いは必要ありません。
(2)内勤時間
主に事業場外で働いている人でも、事業場内で勤務することはしばしばあります。その業務を遂行するために、通常、所定労働時間を超えて労働することが必要な場合、事業場内で労働した時間は、みなし労働時間制の対象にならないため、別途労働時間として把握し、加算する必要があります。
その結果、所定労働時間を超える場合は時間外労働手当(法定労働時間を上回る場合は割増賃金)の支払いが必要です。
営業手当が時間外労働手当に相当する手当だということであれば、就業規則(賃金規程)にその旨を定めておく必要があります。
その上で、実際に働いた時間に応じて計算した時間外労働手当の金額が営業手当の額を上回った場合は、その差額を支払う必要があります。
また、事業場外で労働する場合も、深夜業、休日、休憩時間の定めは除外されません。休日や深夜に労働させた場合には、割増賃金を支払う必要があります。
※本記事は、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2011年10月に掲載したものです
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下山智恵子 しもやまちえこ
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士
大手メーカー人事部を経て、1998年に下山社会保険労務士事務所を設立。以来、労働問題の解決や就業規則作成、賃金評価制度策定等に取り組んできた。 2004年には、人事労務のコンサルティングと給与計算アウトソーシング会社である(株)インプルーブ労務コンサルティングを設立。法律や判例を踏まえたうえで、 企業の業種・業態に合わせた実用的なコンサルティングを行っている。著書に、『労働基準法がよくわかる本』『もらえる年金が本当にわかる本』(以上、成美堂出版)など。