2012年12月11日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [17] 『リーダーを目指す人の心得』―コリン・パウエル/トニー・コルツ


飛鳥新社 2012年10月



 ストリートキッドから上りつめ、四つの政府で要職を歴任、最後はジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエルが、多くの逸話や自らの体験をもとにリーダーシップについて語った本です。

 第1章の「私の13カ条ルール」という、事例に沿った分かりやすいリーダー訓にまず引き込まれます。第2章では、自分を本当に知ることの重要性、いつも自分らしくある方法を、第3章では、自分の部下を中心に、ほかの人を知ることに焦点を当て、第4章では、近年のデジタル世界における自らの経験を語り、第5章では、偉大な管理者、偉大なリーダーになる方法を説いています。

 ピーター・ドラッカーは、「最も多くのリーダーが訓練を受け、育成されているのは軍隊である」と述べていますが(W・コーン『ドラッカー先生のリーダーシップ論』(2010年/武田ランダムハウスジャパン)、米国史上最年少で(しかも黒人で)統合参謀本部議長となった彼は、その最たるものと言えます。

 原題は「IT WORKED FOR ME(私はこれでうまくいった)」であり、「FOR ME(私にとっては)」というのが実に謙虚。リーダーシップに正解はなく、誰もがこれでうまくいくとは限らないこと示唆しているわけですが、内容の説得力は、ちまたにあふれる「これを読めばあなたも有能なリーダーになれる」的な薄っぺらな自己啓発本をはるかに凌駕しています。

 「13カ条ルール」の一つ、「まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ」に関して、かつてボブ・ウッドワードが著した『司令官たち―湾岸戦争突入にいたる“決断”のプロセス』(1991年/文藝春秋)に、「砂漠の嵐」作戦の指揮官シュワルツコフが、部下が悪い話を持ってきただけでその部下に怒鳴り散らすタイプだったのに対し、彼の部下だったパウエルは、部下のどんな話もじっくり聞くタイプだったとあったのを思い出しました。湾岸戦争後、両者の地位の上下は逆転しています。

 その後パウエルには、“初の黒人大統領”を待望する世論の声が強まりますが、これも「13カ条ルール」の一つ、「他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてはいけない」の項で、自らの“直感”に沿って大統領選への不出馬を決断したことが書かれています。国務長官を辞した際も、金融関係など多くの企業から超高処遇での役員オファーがあったものの、同じような考え方からそれらを断っており、結果としてそうした判断は正しかったと。

 『司令官たち』では、ジョージ・H・W・ブッシュ(パパ・ブッシュ)が、慎重派のパウエルよりも、好戦的なスコウクロフトの主戦論になびいて湾岸戦争に突入していく様が描かれていましたが、イラク戦争でもパウエルは、息子ジョージ・W・ブッシュの強硬姿勢にブレーキをかける立場に回っています。

 しかし、米国は戦争に突入し、パウエルは国連で「イラクに大量破壊兵器あり」との確証に基づかない演説をさせられることになります。本書ではそのことを自らの経歴上の“汚点”として素直に認め、どうしてそうした事態になったのかも冷静に分析しています。

 最終章は楽しいエッセイ風の回想録となっており(あるレセプションで、ダイアナ妃を巡り、主賓のヘンリー・キッシンジャーをさし置いて王妃と近しく接したことを嬉々と語っている)、リーダーシップの啓蒙書としてばかりでなく、読みものとしても興味深く読めるものとなっています。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年11月にご紹介したものです。

 

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー