PHPビジネス新書 2012年7月
長引く不況で若者の安定志向が強まっていると一般には言われていますが、著者によれば、実際には今の若者の多くは、会社に自分の「適職」がなく「自己実現」できそうにないと感じたら会社を辞めることにためらいはなく、また、ある仕事で能力を高めたら、転職・独立してさらなる成功を目指す傾向にあり、しかも、優秀な社員ほどこうした〈キャリア志向〉が強いとのことです。
転職・独立が当たり前の時代を迎えた今、企業側も、辞めていく社員に塩をまくのではなく、スマートで合理的な送り方を身に付けるとともに、スピンアウトするエネルギーを、企業の活力と成長につなげるマネジメントモデルを構築していくことが求められるとしています。
著者は、これまでの日本企業は、とにかく人材を確保し、使い方は後で考えるという「ストック型」雇用システムだったが、これからの人材活用の最適解は「フロー型」マネジメントの中にあるとしています。そして、実際に伸びている会社は「フロー型」マネジメントを行っているところが多く、「できる2割」の社員が抜ける組織は活力があるとまで言い切っています。
具体的な目安として、入社3年で一人前に育て、10年で巣立たせる――要するに5年~10年程度を「適職選びの期間」と定め、会社と個人の双方が損をしない仕組みを作れば、その期間を経て退職したとしても、それまでに会社にかなりの貢献をしてくれるであろうし、また、そうした施策は、女性や外国人留学生、非正規雇用社員の格差問題の解消にもつながり、社会的メリットもあるとしています。
社員、企業、上司のそれぞれの立場から分かりやすく書かれていて、部下に「自立能力」を付けさせるにはどうすればよいかを説くとともに、社員個人が自立すると、チームワークも良くなり、組織に対する帰属意識や愛着も、転職・独立する人のほうがより積極的な性質を帯びてくるとしています。
最後に、これからのリーダーとして「キャリア志向の部下を羽ばたかせる上司」像を提唱し、部下を育て、羽ばたかせることによって上司自身も成長できるとしています。
優秀な社員をいかにして引き留めるかという「リテンション」施策に目が行きがちなところ、〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップすることで、会社と社員の間に「Win‐Winの関係」を築くべきだとして発想の転換を促している点は、パラダイム変革的な提言として注目されるべきかもしれません。
スキルには、一企業でしか通用しない「企業特殊的スキル」と、どこでも通用する「一般スキル」があり、転職・独立するには「一般スキル」が必要だと言われていますが、著者は、「外部通用性のある特殊的スキル」こそが転職や独立に役立つとしています。このことは、当事者である社員自身が最もよく知っているのではないでしょうか。
こうしたスキルは、伸び盛りの会社、業界内でも先端をいく企業においてこそより身に付きやすいものであり、社員が「よく辞める」会社が成長するのではなく、成長している会社の社員は「よく辞める」ということになるんじゃないかな。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年8月にご紹介したものです。
【本欄 執筆者紹介】
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー