2012年08月24日掲載

人事担当者のための法律読みこなし術 - 第4回 別表と表

 


吉田利宏  よしだとしひろ 元衆議院法制局参事


■別表の意味

○労働組合法
別表 (第19条の12関係)

 15人   7人   
 13人    6人  
 11人   5人  
 9人   4人  
 7人   3人  
 5人   2人  


 最初から暗号のようでスイマセン。左欄(本当は縦書きなので「上欄」となります)の数字と右欄(下欄)の数字を比べると、なんとなく規則性のようなものが見られます。
 左欄の数字の過半数に満たない最大数が右欄の数字に当たるようになっています。実は、この表は、都道府県労働委員会の公益委員の数に関するものです。ご存じのとおり、労働委員会は、使用者委員、労働者委員、公益委員の同数で組織しますが、中立性が求められる公益委員のこと、その一定数が同一政党に属する者とならないよう定められています。それに関する表がこの別表なのです。15人の公益委員がいたら、その7人以上が同一政党に属することにならないように、13人の公益委員がいたら、その6人以上が同一政党に属することにならないように…というものです。ただ、文章にするより、図にしたほうが分かりやすいので、こうして図にまとめています。

○労働組合法
(都道府県労働委員会)
第19条の12 都道府県知事の所轄の下に、都道府県労働委員会を置く。
2・3 略
4 公益委員の任命については、都道府県労働委員会における別表の上欄に掲げる公益委員
  の数(略)に応じ、それぞれ同表の下欄に定める数以上の公益委員が同一の政党に属する
  こととなってはならない

5 略

■「別表」と条文中の「表」との違い

 別表というのは、附則の後ろに置かれる表のことです。関連する条文から遠く離したのは、条文を読みやすくするための配慮です。ただ、物事にはメリットもあれば、デメリットもあります。表を後ろに回して条文はスッキリしたものの、関連する表が遠くに離れて読みにくいという問題も生じます。さらに、あまり離れすぎて、「どの条文に関連する表なのか分からない」というおそれもあります。そこで、別表には、それがどの条文に関する表であるのか示すルールがあります。「第19条の12関係」とあるのがそれです。
 「ということは、条文が読みにくくならないのなら、条文中に表を置くのもありなの?」。まさにそのとおり。例えば、次のような表がじん肺法4条には置かれています。

○じん肺法
(エックス線写真の像及びじん肺管理区分)
第4条 じん肺のエックス線写真の像は、次の表の下欄に掲げるところにより、第一型から第四型までに区分するものとする。

エックス線写真の像
第一型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの
第二型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの
第三型
第四型

2 略 

■結局は「趣味」の問題!?

 「こちらの表の方がよっぽど条文を読みにくくしているじゃないの?」
 もっともな指摘です。実は、省略した4条2項には、さらに複雑でボリュームのある表が置かれています。先ほど、条文の読みにくさを生じさせるような表は別表として処理し、そうでない表は条文中に置くといいましたが、これはあくまでも「目安」にすぎません。実際には「原案作成者の趣味」がかなり反映しています。通常、こうした細かい形式上の問題について、議員はあまり関心を示しません(もっと本質的な問題に関心が集まります)。そのため、原案どおり、法律になることが多いのです。なんでも厳密に決められていると思いがちな条文ですが、割と「ゆるい」部分もあったりもします。
 ある省庁の法案のテイストが微妙に変わったりすると「今度の参事官(担当の内閣法制局参事官のこと)の趣味なのかな?」などと職場で話題にしたものです。

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2011年10月にご紹介したものです。

吉田利宏 よしだとしひろ
元衆議院法制局参事
1963年神戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、衆議院法制局に入局。15年にわたり、法律案や修正案の作成に携わる。法律に関する書籍の執筆・監修、講演活動を展開。
著書に『法律を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)、『政策立案者のための条例づくり入門』(学陽書房)、『国民投票法論点解説集』(日本評論社)、『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規)、『判例を学ぶ 新版 判例学習入門』(法学書院、井口 茂著、吉田利宏補訂)、『法令読解心得帖 法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方』(日本評論社、共著)など多数。