2012年06月26日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [6]『戦略人事のビジョン―制度で縛るな、ストーリーを語れ』―八木洋介/金井壽宏 著


光文社新書 2012年5月



 日本GEでシニアHRリーダーなどを務めた八木洋介氏が「人事」について語り、「キャリア」「リーダーシップ」の研究者である、神戸大学の金井壽宏教授が章ごとに解説を加えた構成となっています。

 八木氏は、マネジメントには、勝つための戦略を立てる「戦略性のマネジメント」と、企業の歴史的継続性を重視する「継続性のマネジメント」があり、後者は世の中の変化に鈍感になりやすく、人事部門の場合、前例踏襲を優先し、権限を盾に制度やマニュアルを固守する姿勢をとりがちになるとしています。

 多くの日本企業の人事部門は「継続性のマネジメント」に縛られているとする一方、「戦略性のマネジメント」とは、「勝つ」ための戦略ストーリーを分かりやすい言葉で語ることで、社員のやる気を最大化し、生産性を上げることであり、これこそが人事の役割であるとしています。

 制度は権限を生み、人事制度ができれば人事部に権限が生まれ、人事担当者はル―ルや権限に基づいて仕事しがちですが、戦略人事における最大の課題は制度の固守ではなく、マネジャーやリーダーの育成であるとしています。

 そのためには、人事担当者自らもリーダーシップを発揮せねばならず、人事担当者にとってのリーダーシップとは、権限ではなく見識を持ち、正しいことを正しく主張し、ストーリー化した戦略(企業が成長していくための「絵」)を描き、世の中の変化に合わせて変革の道筋を示すことであるとしています。

 GEは、「グロース(成長)とリターン(利益)」の追求という「勝ちの定義」が明確な会社であるとのことですが、興味深いのは、GEは「建前の会社」であるともしている点です。すなわち、従来の日本企業の「以心伝心のコミュニケーション」ではグローバル化には対応できず、むしろ本音を封印し、社員が「建前で働く」会社にすることが、会社のグローバル化を成功に導くとしています。

 本書では、GEがどのような人材を集め、どんなやり方で社員を評価しているのかを紹介するとともに、自らが歩んできたキャリアのストーリーを語ることで、八木氏自身が社員のやる気を引き出すためにどのようなことをしてきたかが具体的に示されています。

 そのうえで、リーダーを育てるにはどうすればよいかについて、GEのリーダー育成法を引きながら、日本発の、リーダー候補者たちに「自分の軸」の明確化を促すことに重点を置いた、リーダー育成プログラムを紹介しています。

 最後に、競争に勝ち抜く「強い会社」と、社会に対して存在意義を示せる「よい会社」という両概念は融合できるとし、日本企業が「強くて、よい会社」になっていくためにはどうすればよいか、「強くて、よい会社」をつくっていくために人事担当者が果たすべき役割や求められる資質は何か、を述べています。

 全体を通して、GEにおける自らの経験を基に、実務者の視点から分かりやすく説かれているとともに、日本企業のこれからの人事のあり方や人材育成の方向性に多くの示唆を与える内容となっており、個人的にも、啓発される部分が多くありました。階層によらず、広く人事パーソンにお薦めできる本です。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年5月にご紹介したものです。
【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー