2012年05月18日掲載

自社の研修効果をいかに高めていくか - 第1回 研修効果を高めるために

 
          藤江 嘉彦 ふじえ よしひこ
             株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
             サービス開発部 トレーニング技術グループ マネジャー

 近年、研修効果に対する関心が高まっている。
 人事・人材開発部門の方々と議論させていただく中で、「研修の費用対効果がより厳しく求められるようになった」「研修の実施目的が知識付与や役割意識の醸成から、事業成果への貢献へとより実務に直結させることが求められるようになった」という声を頂戴することが多い。研修にも結果が求められるようになったのだ。
 また、事後のフォローアップ研修や複数回にわたるアクションラーニングといった集合施策や、コーチング・カウンセリングのような個人別のフォロー施策など、テーマや受講者の状況に応じて研修効果を高めるためのさまざまな取り組みも行われている。
 「研修効果」は、この領域に関わる者にとっては永遠のテーマと言える。
 弊社(リクルートマネジメントソリューションズ)でも、さまざまな企業への研修サービスのご提供を通して、研修の効果・価値を高めるための施策の研究・開発を行ってきた。今回は、次のようなテーマで3回に分けて「研修効果を高めるためにはどうすればいいか」を、読者の皆さんとともに考えていきたい。

 第1回:研修効果を高めるための考え方を整理する(研修効果を高めるために)
 第2回:受講者の職場実践を促進する試みと結果を紹介する
      (研修の振り返りの手法と実践への支援)
 第3回:職場実践を促進するポイントとまとめを行う
      (効果の測定と、研修を「やりっぱなし」にしないために)

■研修企画担当者の問題意識

 研修企画担当者は具体的にはどんな問題意識を持たれているのか。以下に典型的な声を整理してみた。

<研修企画担当者の研修効果向上における問題意識(例)>
・「現在は研修が“やりっぱなし”になっており、研修後の実践や変化の状況が分からない」
・「事務局(人事)としても現場にも情報提供や実践のサポートをしたいが、マンパワーが足りない」
・「職場の状況はさまざまであり、かつ変化が激しいので、事務局としても把握しきれない」
・「研修現場に同席してみると、職場の実情は非常によく分かるのだが、その時からフォロー施策を検討しても間に合わない」
・「経営から、研修の投資対効果についての説明を求められることが多くなり、効果検証をしっかり行っていく必要が生じている」
 経営環境が大きく変化する中で、人事・人材開発部門においても、経営からより高い成果やコストパフォーマンスが求められており、研修に対してもより一層「戦略性」や「実効性」が期待されている。研修を研修のままに終わらせない取り組みが求められている訳だが、いざ実際に取り組もうとすると、「研修後もフォローをしていきたいがなかなか難しい」「具体的に何をすればいいか分からない」という研修を企画する側の実情や問題意識が見えてくる。

 冒頭に述べたように、複数回にわたる継続的な研修の実施や、個人別のコーチングは研修施策全体を高めるために非常に有効だが、受講者を何度も全国から集合させたり、一人ひとりの状況に合わせて個別に対応したりすることには相応のコストや手間がかかることも事実である。あらためて、1回1回の研修効果を高めるためには、どのように考え、何に取り組めばよいのか。

■研修効果を高めるための発想転換

 今日、研修効果を考える上では以下の三つの発想転換が必要となってきた。

(1)「研修での学習」から「職場における実践」へ
 通常、研修を企画し実施する側にとってみると、研修の効果として最も関心が高いのは、
研修における受講者の学習の度合いや満足度、認識の変化である。すなわち研修終了時点における受講者の状態である。研修を実施する以上、そのことの重要性は言うまでもない。
 しかし、それだけでは十分ではない。受講者が研修で学んだことを自分のものとして体得するためには、学んだことをそのままにせず、それを活用する計画を立て、実践し、その結果を振り返るというプロセスが不可欠となる。つまり、研修で学んだことが実際の効果を上げることを「研修効果」と捉えるならば、「研修での学習」のみではなく、その後の「職場における実践」に着目することが必要となる。受講者が職場に戻った後に、研修の真価が問われてくるわけである。

(2)職場における「PDSサイクル」の実践を支援する
 上記でも触れたように、学習したことを実際に身に付けるためには、職場における実践が不可欠である。そのためには、受講者自身が計画(P:Plan)→実践(D:Do)→振り返り(S:See)というPDSサイクルを回していくことが重要となる。これを実際に進めていくためには、受講者自身の主体的な参画意識の醸成とともに、受講者を支援し、実践を促進するためのきめ細かい働き掛けも必要になってくるだろう。このことは受講者が研修に来る前に始まり、研修後も続く取り組みである。
 具体的には、受講者が研修前に研修の受講目的を踏まえて臨めるようにすること、研修受講後の実行計画立案とその実践を後押しすることが必要となる。さらに実際にやってみたことの「振り返り」、これがポイントとなる。一定期間後に実践内容を振り返ることが、身に付いたことの確認とともに、さらに実践を進めることにつながるのである。

(3)効果測定は、「意識・行動の評価」から「要因の分析」へ
 さまざまな取り組みを通して研修効果を高めたとする。では、その研修効果はどのようにして測定すべきだろうか?研修単体の効果を測定する目的であれば、「研修で学んだことを覚えているか?」「普段から意識しているか?」「どの程度行動に生かしているか?」といったことを受講者本人に尋ねるアンケート調査は有効であり、すでに広く実施されている。しかし、これだけでは研修の結果評価が目的となっているため、研修を実施する事務局のためにはなっても、受講者本人や現場のためにはならないことになる。
 受講者の実践につなげるためには、研修後の意識や行動の変化という「結果」だけではなく、「なぜ意識/行動できているのか」「なぜ意識/行動できていないのか」という要因分析に踏み込むことが必要となる。このことを受講者自身が振り返りに活用することで、実践の促進が可能となるからだ。職場実践に焦点を当てる以上、「効果測定」と「効果促進」を切り離して考えることはできないのだ。

■職場での実践を促進するには

 以上、研修効果を考える上での三つの発想転換について述べてきた。一つ一つには特に目新しい点はないと思う。学習したことを実際にやってみて、振り返るという体験学習のプロセス(PDSサイクル)は、研修そのものを設計する上でも必要となる考え方である。ここで強調したいのは、そのPDSサイクルを、受講者が職場に戻ってからも回せるように支援できるかが、これからの研修効果を考える上で重要な視点であるということである。

 ただ、これを実施することは容易ではないことも、冒頭の研修企画担当者の問題意識でも見てきた通りである。では、研修後の「職場における実践」を促進し研修効果を高めるためには、具体的に何をやっていけばいいのか? 弊社では、WEBを活用した研修効果を高めるサービスの研究・開発を行っている。次回は、このサービスを利用した具体的な研修効果促進の取り組み事例を紹介したいと思う。

※本記事は、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2011年11月に掲載したものです

藤江 嘉彦 ふじえ よしひこ
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
サービス開発部 トレーニング技術グループ マネジャー

1992年リクルート入社。意欲とコミュニケーションの研究を経て、人材採用領域のサービス開発、キャリア領域の研究に従事。2001年よりトレーニングおよび、企業の事業成果支援サービスの企画開発に従事。現在はトレーニングサービスの基盤技術の研究、トレーナーの技術力向上支援、および実践支援プロジェクトにて研修の効果・価値を高めるための施策の研究・開発も担当。
■リクルートマネジメントソリューションズ http://www.recruit-ms.co.jp/