著者はGEとグーグルでリーダーシップを教えた経歴を持つコンサルタントであり、リーダーシップには「型」があるとの考え方のもと、現代の社会や組織で求められるリーダーシップとは何かを述べた本です。
リーダーシップ実践には「自分を知る」「絵を描く」「人を巻き込む」の三つのステップがあるとし、そのために必要な「自己・他者認識力」「ビジョン構築力」「コミュニケーション力」をどう高めるかを、リーダーシップについて書かれた名著から、さまざまな理論を引きながら説いています。
また、そうした理論を、先進企業での自らの経験に置き換えたり、日本の企業経営者のリーダーシップ行動に当てはめたりしながら解説を進めているので、あるべきリーダー像を具体的にイメージしながら読み進むことができます。
理論の典拠はやはり海外のものが多く、そもそもリーダーシップ研究の歴史の長さが違うので、リーダーシップの「型」を紹介していくとこうなるのでしょう。ドラッカー、ウォレン・ベニスといった大御所から、マーカス・バッキンガムなど比較的新しい論客、さらには、マルコム・グラッドウェルなど自己啓発本に近いものまで出てきます。
基本的には、場当たり的なリーダー論に依拠するよりは、こうした「型」をひと通り網羅して大まかに体系を掴(つか)んだうえで、その中から自分に合った考え方を抽出し、リーダーとしての日々の行動に落とし込んでいくのが、やはり近道のように思います。
紹介されているリーダーシップの「型」というものが、ややMBA型の「強いリーダーシップ論」に偏っているかなあ。ジャック・ウェルチなどもそうだし。全体としては、リーダーシップ論の体系づけにはさほどこだわっておらず、啓蒙書的なスタイルになっているように思えました。
タイトルの「リーダーは弱みをみせろ」ということについては、「自己・他者認識力」の部分で、ビル・ジョージの『リーダーへの旅路』を引きつつ、「自分の奥底に蓋をして必死に隠してきた自分の弱さを明らかにし、それらを受け入れることを通じて、自身の発言や行動が確信に満ちてきて、その結果、人がついていきたいと思う本物のリーダーに成長できる」としています。
個人的にはむしろ、「リーダーは弱みをみせろ」という言葉から想起したのはジョン・コッターでした。コッターは、「インフォーマルな人間関係に依存する」ことをリーダーの特質の一つとして挙げています。噛み砕いて言えば、困った時に「俺、困ってるんだけど」と言って相談できる仲間がいる、つまり、「人に弱みを見せることができる」のが、実は優れたリーダーであると(こちらの方がタイトルに近い?)。
本書に関しては、リーダーシップ研修の講義をそのまま本にしたような内容であるとも言えます。そうした意味ではうまくまとめられていて(理論ばかりだと眠くなるからね)、リーダーシップ研修を内製化しようとする場合においては、コンテンツ作成のヒントが得られるかもしれません。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年4月にご紹介したものです。
【本欄 執筆者紹介】
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー