学習する組織

公開日 2011.03.01 和田東子(HRDジャーナリスト)

学習する組織(がくしゅうするそしき)

「学習する組織」とは前例や慣習にとらわれず、変化に対応し、自己変革する組織のこと。ここでいう学習とは知識やスキルの修得だけではなく、組織として新しい考え方や行動パターンをつくり出し、身につけ、活用することも含まれる。

「学習する組織」というアイデアを最初に提唱したのはクリス・アージリス(Chris Argyris)とドナルド・ショーン(Donald A. Schon)である。2人は、学習には「シングルループ学習」と「ダブルループ学習」があり、問題を本質的に解決し、改善していくためにはダブルループ学習が不可欠であり、この学習が成果を上げる学習する組織に特徴的であると述べた(『Organizational Learning』1978年)。

クリス・アージリスとドナルド・ショーンのアイデアに、1960年代からMITで研究が進んでいたシステムダイナミクスの概念を取り入れたのがピーター・センゲ(Peter M. Senge)である。システムダイナミクスとは企業行動研究のために開発されたシミュレーション手法であり、現在では社会システムや政策のシミュレーションモデル作成等に活用されている。

センゲは現実のビジネスでは、複雑な因果関係をもつさまざまな諸要素が複雑にからみあっており、それらの因果関係を総体(システム)としてとらえる必要があると考えた。これを「システム思考」と呼ぶ。センゲは組織がシステム思考を取り入れ、業務に生かしていくために必要なポイントを5つの原則に整理し、『最強組織の法則』(The Fifth Discipline)で発表した(1990年)。

センゲによる、学習する組織の5つの基本的な原則
①システム思考
システム思考は局所的な思考に陥らず、大局で物事をとらえる。「木を見て森も見る」思考力であり、この思考を組織が身につけるためには、官僚的な慣習の打破、新たなパラダイムを見つけそれに向かっていく積極的な組織文化など、さまざまな取り組みが必要になる。
②自己マスタリー
絶え間なく自分の能力を向上させ、自分が本当に探し求める人生を創造する個人の力。このような学習をし続ける個人が集まることで、初めて「学習する組織」の実現は可能になる。
③メンタル・モデル
過去の成功をもたらしたビジネス・モデルを常に問い直すメンタル・モデルを社員の中に醸成する
④共有ビジョン
企業のビジョンと個人のビジョンのベクトルをそろえる
⑤チーム学習
「チームの知能指数は個人の知能指数をはるかに超える可能性がある」とセンゲは述べる。そのようなチームの力を引き出すために、意見交換とディスカッションのバランスを取り、チーム内の協力体制を築く必要がある


■参考文献
『最強組織の法則~新時代のチームワークとは何か』ピーター・センゲ著(徳間書店、1995)
『知識創造企業』 野中 郁次郎 、竹内 弘高 著(東洋経済新報社、1996)
「ダブル・ループ学習とは何か~シングル・ループ学習では組織は進化しない」Harvard Business Review2007年4月号

学習する組織_シングルループ学習、ダブルループ学習のイメージ