正統的周辺参加

公開日 2011.03.01 和田東子(HRDジャーナリスト)

正統的周辺参加(せいとうてきしゅうへんさんか)

(Legitimate Peripheral Participation、LPP、実践共同体、実践コミュニティ、コミュニティオブプラクティス、状況的学習論、認知的徒弟制度、正統的周辺参加モデル)

学習プロセスモデルの1つ。ウェンガーとレイヴが提出した「正統的周辺参加」「実践共同体」という概念は、1990年代から今世紀にかけて、最もインパクトがあった理論の1つである。

ウェンガーとレイヴは学習を学習者が共同体に参加していくことで発生する、周囲のメンバーとの相互作用そのものであると見なす。

そして、このような相互作用が発生する共同体を、「コミュニティオブプラクティス」(community of practice)、日本語訳で「実践共同体」「実践コミュニティ」と呼んだ(1991年)。

世の中には家族、職場、地域、学校、個人的なつながりなどさまざまな共同体が存在するが、3つの要素——領域(domain)、コミュニティ(community)、実践(practice)——が備わっているとき、その共同体は「実践共同体」であるということができる。ウェンガーらは、特に、その共同体が同じ興味や関心をもつ集団であることを重視した。

実践共同体における学習は、学習者が熟達者の実践活動に何らかの形で参加することによって発生する。学習者は共同体によって変化すると同時に、共同体もまた、学習者を受容することで変化する。

これは共同体の新参者である学習者が、徐々に共同体の中心的役割(十全的参加)に近づき、熟達者に近づく過程でもある。したがって学習者はまず、共同体の“端”、いわゆる“末席”に連なり、ごく限られたレベルで熟達者の活動に参加するに過ぎない。このような参画をウェンガーとレイヴは「正統的周辺参加」(Legitimate Peripheral Participation : LPP)と名付け、共同体への正統的周辺参加こそが学習そのものであると定義した。

彼らの学習に関する新たな概念は、活動理論からの発展でもある。ヴィゴツキーは最近接発達領域において、子ども(学習者)と周囲の支援者との関係性のなかに学習が発生すると指摘したが、外的な刺激によって子どもの内面に変化が起こる(内化)ことによって学習が成されるとした。

これに対してウェンガーとレイヴは、学習を実践共同体への参加の度合いの増加(正統的周辺参加から十全的参加へ)であると見たのである。

このように学習を学習者の頭の中で起こるものとはせず、周囲との関わり合い方としてとらえる考え方を「状況的学習論」という。

また、ウェンガーとレイヴは親方が弟子を教育する徒弟制度の研究を通じて正統的周辺参加の概念を明らかにしたが、コリンズらはこのタイプの学習形態を「認知的徒弟制度」と呼んでいる。


■参考文献
『状況に埋め込まれた学習――正統的周辺参加』ジーン レイヴ, エティエンヌ ウェンガー原著(産業図書、1993)
『コミュニティ・オブ・プラクティス』Harvard Business School Press(翔泳社、2002)
『知識コミュニティにおける経営』ロバート・H.バックマン著(シュプリンガーフェアラーク東京、2005)

■関連用語
インストラクショナルデザイン