公開日 2011.03.01 和田東子(HRDジャーナリスト)
ガニエの9教授事象(がにえの9きょうじゅじしょう)
実際に学習プログラムやカリキュラムを考えるときに、ガイドラインとなるのが学習支援理論や教授設計理論だ。中でもロバート・ガニェによる「ガニェの9教授事象」は、具体的で分かりやすく、“使える理論”として評価が高い。ガニェの9教授事象は、次の9つのステップでプログラムやカリキュラムを設計する。
①学習者の注意を獲得する
研修に集中して取り組ませるために、物珍しさを喚起する、質問の投げかけ、アニメーションやゲーム、アイスブレイク等、さまざまな方法がある。
②授業の目的を知らせる
達成してほしい知識やスキルが何であるかを示すことは、学習者が学ぼうとしているスキルに集中することに役立つ。
例えば、「日本の都道府県の名前を学習します」という言い方は適切だろうか? 仮に教師が都道府県名の暗記を求めているのだとしたら、単に何を学習するかを述べるだけではなく、より適切な言い方を工夫する必要があるだろう。
このように「目的を知らせる」ことは、実は簡単ではない。
③前提条件を思い出させる
どんな学習内容であっても、前提となる知識やスキルなどがある。例えば、かけ算の学習には、足し算ができていることが前提となる。新しい学習をうまく進めるには、前提条件となるルールや概念、知識を明らかにする必要がある。
④新しい事項を提示する
学ぶべき新しい事柄について、印象的に、インパクトをもって提示する。「重要な事柄について述べる時には一歩前に出る」「重要事項にマルをつける」などの多種多様な技法が開発されている。
⑤学習の指針を与える
学習者がすでに知っていることと、いま学ぼうとしていることとを結びつけるヒントを提示すること。ブルームはこれを「足場づくり(scaffolding)」と呼び、現在でもこの呼び方は定着している。
⑥練習の機会をつくる
理解したことを学習者が自覚し、繰り返し使用できるよう練習を行う。このとき、練習では間違えても構わないことを学習者に伝えることが重要である。
⑦フィードバックを与える
学習内容の正確さや学習成果の程度についてフィードバックを与える。フィードバックではなぜ間違えたのか、なぜ成功したのかを明らかにし、次も成功するにはどうすればよいかを本人に気付かせられるようにする必要がある。
⑧学習の成果を評価する
これは単に「できた」ことを評価する以上の意味がある。例えば何らかのルールの理解を求めたとき、本当に理解しているのか、単に暗記をしただけなのかを見極める必要がある。学習の目標に照らして適切な判定方法を検討する必要がある。
⑨保持と転移を高める
学習した内容を忘れないように記憶に止め、必要に応じて知識とスキルを呼び出すことができるよう訓練が必要である。一般的には適度な期間を空け、テストするといったことが必要だ。
「ガニェの9教授事象」はそれだけ読むと、何ということはない内容だが、人の認知と情報処理、そして記憶定着の仕組みに対する研究によって裏付けされている。
以下の図は、「ガニェの9教授事象」のベースとなった、人の学習と情報の処理に関するモデルである。「ガニェの9教授事象」の各ステップは、下図の「プロセス」に書かれている反応を引き出すよう考えられている。
■関連用語
インストラクショナルデザイン