公開日 2011.03.01 和田東子(HRDジャーナリスト)
インストラクショナルデザイン(いんすとらくしょなるでざいん)
●最も効果的な学習法を考える学問
インストラクショナルデザインは、学習者の内面的な変化を、外側の諸要素——テキストやインストラクターによる講義、グループ学習等のさまざまな教育ツールやメソッド——を用いて発生させる方法のこと。
簡単にいえば、さまざまな教育ツールや周囲の状況を、どのように使えば、最も効果的な学習ができるのかを考える学問である。略して「ID」。
インストラクショナルデザインの基盤理論は、学習のメカニズムに関する諸理論(行動主義、認知主義、状況主義など)、学習プロセスモデル(学習移転モデル、経験学習モデル、批判的学習モデル、正統的周辺参加モデル)、動機付け理論(マズローの欲求5段階説、ARCS(アークス)モデル)などがある。
学習プロセス設計の枠組みとなるのが、「ADDIE(アディー)モデル」である。このモデルは分析(Analysis)・設計(Design)・開発(Development)・実施(Implementation)・評価(Evaluation)の5プロセスからなる。
ADDIEモデルは論理としてはよく整理され、今日でもその有効性は広く認められている。ただし実際には、ADDIEモデルだけでは学習をうまく設計することができない。
そこで通常は、目標の明確化に関する理論、学習支援理論、教育効果測定手法、学習環境デザイン理論などを統合的に用いる。そのときADDIEモデルに照らして“穴”がないか検討するのが、このモデルの最も有効な活用法だ。
●類語から見える立場の違い
インストラクショナルデザインが日本に紹介されたのは1960年代。アメリカの教育理論として導入され、このとき「教育工学」という用語が用いられた。
教育システムを開発するプロセスを「インストラクショナルシステムデザイン」、すなわち「教育システム設計」という。
インストラクショナルシステムは、学習活動の促進と支援のプロセスにおいて互いに影響しあう要素の集合であることから、「学習環境」ととらえることもできる。そしてこのような学習環境を設計することを「学習環境デザイン」と呼ぶ。
「学習環境デザイン」という言葉を使う場合は、より学習者に着目し、学習者の主体的な学習行動を支援するという意味合いを強調する。
学習環境デザインでは、学習とは「学習者がある社会的な活動に参加することを通じて、学習者が主体的に行う活動」であると考える。そのため「何を学習するか」という学習の目的を、あらかじめ学習設計者が完全に把握し、計画づけることは難しいとする(学習者中心主義)。学習目標の設定を重視するインストラクショナルデザインとは、この点において立場が異なると主張する。
しかしインストラクショナルデザインと学習環境デザインは相対するものではない。特に企業の現場に立ち戻って考えたとき、より効果的な方法を探すという観点から、双方の成果をうまく活用するのが現実的だ。
■参考文献
『インストラクショナルデザインの原理』 ロバート・M. ガニェ、キャサリン・C. ゴラス、ジョン・M. ケラー、ウォルター・W. ウェイジャー著(北大路書房、2007)
『企業内人材育成入門』 中原 淳 、荒木 淳子 、北村 士朗 、長岡 健、橋本 諭 著(ダイヤモンド社、2006)
『教育工学への招待』 赤堀 侃司著(ジャストシステム、2002)