公開日 2009.08.18 あした葉経営労務研究所
●労働基準法41条2号において、労働時間・休憩・休日に関する規定が除外される管理監督者に該当するか否かは、名称にとらわれず実態に即して判断するものとされている。従来からその妥当性をめぐる裁判例は数多くあり、多くの場合、管理監督者とは認められないとする判決が下されている。その中でも、日本マクドナルド事件(東京地裁 平20.1.28判決)は、いわゆる「名ばかり管理職」という造語を生み出し、会社のネームバリューとも相まって、広く話題となったのは記憶に新しいところである。
●これらの判決を受け厚生労働省では、チェーン店の店長等の管理監督者性についての判断要素として、新たに「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化」(平20.9.9 基発0909001)という通達を発出した。
●この通達は管理監督者に係る基本的な判断基準(昭63.3.14 基発150)の枠内において、チェーン展開する店舗等における店長等の実態と、近年の裁判例を踏まえ、特徴的に認められる管理監督者性を否定する要素を整理したもので、逸脱事例を具体的に示すことによって、判断基準の適正な運用を図ることを目的としている。
<多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化(平20.9.9 基発0909001)>
※いずれも管理監督者性を否定する要素に係るものである
▼「職務内容、責任と権限」についての判断要素
①採用
店舗に所属するアルバイト・パート等の採用に関する責任と権限が実質的にない場合
②解雇
店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合
③人事考課
人事考課の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合
④労働時間の管理
店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合
▼「勤務態様」についての判断要素
①遅刻、早退等に関する取り扱い
遅刻、早退により減給の制裁、人事考課でのマイナス評価等不利益な取り扱いがされる場合。ただし、過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払いの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については、管理監督者性を否定する要素とはならない
②労働時間に関する裁量
営業時間中は店舗に常駐しなければならない等、労働時間に関する裁量が殆どないと認められる場合
③部下の勤務態様との相違
管理監督者としての職務も行うが、会社からのマニュアルに従った業務に従事している等、部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占める場合
▼「賃金等の待遇」についての判断要素
①基本給、役職手当等の優遇措置
基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案したときに、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められる場合
②支払われた賃金の総額
1年間の賃金総額が、勤続年数、業績等の特別の事情がないにもかかわらず、当該企業の他店舗も含めた一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合
③時間単価
実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額が店舗に所属するアルバイト等の賃金額に満たない場合。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金に満たない場合は、管理監督者性を否定するきわめて重要な要素となる
なお、「上記通達で示した否定要素に該当しなければ直ちに管理監督者として認められるというわけではない」とされている。
■関連用語
管理監督者(労働時間・休憩・休日規定の適用除外その1)
休日・時間外及び深夜労働の割増賃金
(あした葉経営労務研究所 代表/株式会社キャリア・ブレーン 認定キャリア・コンサルタント 本田和盛)