国民年金の水準低下緩和へ 「厚生」から財源振り分け 25年法改正目指す、反発も

 

 田村憲久厚生労働相は10日の記者会見で、少子高齢化に伴い、国民年金(基礎年金)の水準が将来大幅に減る見込みであることから、低下幅を抑える制度改革を検討する方針を明らかにした。厚労省は会社員が加入する厚生年金から財源を振り分けることで実現したい考え。

 国民年金のみの受給者は2020年3月現在、約695万人。5年に1回行う年金財政検証の次回24年に具体的な財源配分方法を示し、25年に改正法案の提出を目指す。ただ高収入の会社員は将来の年金水準が現行制度に比べ下がることになり、経済界の反発も予想されるため、早めに方針を打ち出したとみられる。

 公的年金では、少子高齢化で支え手が減少しても制度を維持するため、物価や賃金が上昇しても支給額を一定期間抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みがある。だが物価が上がらないデフレ経済が続いたため、この仕組みが働かず、現在の高齢者の年金水準が想定よりも高止まりした状態になっている。

 その分、将来の年金水準の下げ幅が大きくなり、抑制期間も長くなる見通しで、19年の財政検証では国民年金の価値は47年度に現在よりも約3割低下。一方、財政的に豊かな厚生年金は約3%の目減りにとどまり、抑制も25年度に終了する。

 低年金で暮らせない人が多数生まれ、厚生年金受給者との格差も広がるため、厚労省は厚生年金の財源を一部、国民年金に振り分け、抑制終了時期も30年代半ばにそろえたい考え。

 この場合、例えば共働きで40年間平均の年収が計1790万円を超える会社員夫婦は、現行制度に比べ将来の支給水準が下がる見通し。ただ土台となる基礎年金が底上げされることで、厚生年金受給者を含め中所得層の年金水準は上がるとみられる。

 田村氏は会見で「所得の低い方々に手厚い年金に変わり、非常に意味のある改革になる」と強調した。経済界などとの利害調整に時間がかかることに加え、菅内閣の退陣が決まったため、自身の在任中に地ならしに着手したい意図があるとみられる。

(共同通信社)