2019年03月14日掲載

心理的安全がもたらすチームパフォーマンスへの効果 - 第4回・完 心理的安全性を高める仕組み・仕掛け-企業事例を通じて


――社会心理学の研究成果と企業事例によるチームづくりのヒント――

青島未佳 あおしま みか
九州大学 人間環境学研究院 学術研究員
株式会社産学連携機構九州(九大TLO) 総合研究部門 アドバイザー

 最終回となる第4回は、心理的安全性を高める方法論について論じたい。第1~3回で解説したように心理的安全性は、チームパフォーマンスやチームメンバー一人ひとりの主体的行動を促進するための重要な土台である。チーム内に心理的安全性があるからこそ、ミスやエラーが減るだけでなく新しいアイデアが生まれたり、一人ひとりが失敗を恐れずに新たなことにチャレンジできたりする。
 一方、これまでの多くの研究において、心理的安全性の重要性は指摘されているものの、どのように心理的安全性を高めるのかという問いに対する明確な答えはほとんどない。
 これは、心理的安全性は、比較的長い時間軸の中で、チームのさまざまな活動やメンバー同士の相互作用によって生み出される心理的な状態であるため、日々の現場活動に影響を受けやすく、この施策や仕組みが有効であるということをデータで検証することが難しいからともいえる。
 本稿では、上記のような制約があることを前提としつつ、企業に対する組織改革プログラムを実施した中で、その前後の心理的安全性の変化を数値で確認した結果と、どのような施策を行ったのかを紹介する。

1.プログラム導入前後の心理的安全性

 今回は、九州大学と某企業の共同研究として、チームのコラボレーションと一人ひとりの主体的な行動促進を目的に、組織の特定チームに対して6カ月間の組織改革プログラムを導入した。
 組織改革プログラムの前後では、さまざまな値を測定したが、心理的安全性の数値も測定した。その結果、プログラム導入後は導入前と比較して、5点満点換算で、0.4ポイント以上向上していた。
 また、プログラムを導入していないチームについても、比較対象群(コントロールグループ)として測定をしたが、そちらのチームは逆に0.3ポイント低下していた[図表1]

[図表1]プログラム導入前後における心理的安全性の変化

 この結果から、組織改革プログラムは心理的安全性を高める効果があったといえる。では、どのような施策を導入したのだろうか? 心理的安全性を高める施策としていくつか紹介したい。

2.心理的安全性を高める施策

【施策1】(目先の業務テーマではない)チーム定例会の継続実施

 心理的安全性を高める第一歩としては、自分の意見を言える場があることが必要である。
 今回の取り組みでは、チーム力の状態を客観的に把握できるように独自の診断ツールを活用し、チームの状態をアセスメントした結果をチーム全員にフィードバックした上で、メンバー全員でチームの課題と対策を本音で議論するチームミーティングを週1回、1~2時間行った。なお、診断ツールによるチームの状態は、「名ばかり」「ゆるゆる」「きつきつ」「いきいき」の四つの象限があり、自分のチームがどの象限に入っているかが事前に提示される[参考]

[参考]チーム力診断によるチームの状態

[注]下記URLで、「チーム力診断(おためし版)」として18問の質問に答えることで自分のチームの状態を診断できる。
http://team-iq.co.jp/service-teamtrackinganalysis/

 このような業務に直結する報告・議論ではなく、チームが抱えている課題について全員が話し合える・自分の意見を言える場があることが、心理的安全性を高めるためには有益であった。
 多くの会社は定例会などの会議を実施しているが、会議の目的は短期的な業績や業務報告に特化したものが多い。そうした業務上の課題を話し合う場では、役割(リーダー、サブリーダー、メンバー)による統制や、スキルや専門性の高さに左右され、全員が平等に発言することは難しい。一方で、チームが抱えている課題というものは、スキルによらず日頃メンバーが感じていることが主題となるため発言しやすい。
 あるチームでは、定例会を進化させて、週1回の会議だけでなく、非公式ミーティングとして週1回に雑談する会を開いていた。また、別のチームでは、チームミーティングを2回に分け、議論をしやすい工夫をしていた。このような工夫によりチームの心理的安全性が高くなっていったと考えられる。
 ちなみに、チーム定例会は組織改革プログラムにおいて核となる活動であり、事後アンケートによると、どのチームにおいてもチームの活性化に有益な取り組みだったと評価されている。

[1]ミーティングのルールづくりが大切
 ただし、単にミーティングを開催すればよいというものではない。実施に当たっては、心理的安全性を高めるためのポイントを押さえて運営することが必要である。今回の取り組みでは、各チームで以下の点を意識して運営していた。

 ・ファシリテーションはメンバーが行うこと

 ・ミーティングには、必ず全員が参加すること

 ・メンバーは本音を言うこと

 ・メンバーの意見について頭ごなしに否定をしないこと

 ・リーダーは発言しすぎないこと

 要するに、心理的安全性を高めるためのルールを明文化しておくことが必要となる。その意味では、心理的安全性の重要性を最初に紹介することも一つの手だろう。

[2]効率的な会議運営は心理的安全性を高める
 加えて、第2回でも指摘したとおり、効率的な会議運営と心理的安全性は関係が深い。実際に今回の研究においても、心理的安全性が高いチームは、

 ①ミーティングに際して、会議の目的を提示している

 ②ミーティングには時間どおりに全員が集まっている

 ③ミーティング効率化に向け、事前準備(宿題・やるべきタスクの提示)が適切にできている

 ④ミーティングの最後に結論・次回のアジェンダ・宿題が伝えられている

――といった会議運営の効率化にかかわる行動が徹底できていた。
 ①の会議の目的の提示は、ミーティングにおいてその場で的はずれな発言をするリスクを低減させることができる。また、③の事前準備(宿題・やるべきタスクの提示)は、熟慮を重ねて発言する傾向の強い日本人においては、大切な段取りだ。
 このようなチーム定例会は難しいことではなく、どのチームでもできる取り組みである。もちろん単に開催するだけでは意味がないが、ポイントを押さえた上で、地道に続けることが心理的安全性を高める第一歩といえる。

【施策2】リーダーとメンバーの1on1

 リーダーとメンバーの1on1も有益だ。チーム全体の心理的安全性の概念は、2者間の信頼と同義である。リーダーとメンバーの間に"信頼"がなければ、チーム全体の心理的安全性も高まりにくい。
 リーダーとメンバー間で信頼を構築するための一つの手法として挙げられるのが1on1である。近年1on1という言葉がはやっているため、本記事でも1on1と言及するが、要するに「事前に予定された、リーダーとメンバーの質の高い会話」である。ちなみに1on1の運用ルールは以下の通りである。

[図表2]1on1の運用ルール

[1]メンバーのための時間を確保する
 日頃忙しいリーダーは、メンバーと業務以外の件について会話をする時間をとることが難しい。難しいというよりも自然と優先順位が下がってしまっている。今回のプログラムにおいては、リーダーに半ば強制的に"リーダーが聞きたいことを聞くのではなく、メンバーが話したいことを話す"時間として1on1を実施してもらった。
 最初はぎこちなく、何を話してよいか分からないという課題もあったようだが、"1on1をやります"ということは、忙しいリーダーがメンバーのために自分の大切な時間を割いていますというメッセージであり、メンバーに対して、あなたはこのチームで大切な人であるという存在承認につながる行為といえる。実際に1on1の実施はメンバーからも高評価を得ていた。

[2]質の良い会話を行う
 1on1での良質な会話とはどういうことだろうか?
 今回の1on1では、プライベート・業務にかかわらずテーマを限定せずに話をしてもらった。その結果、1on1では、日頃聞けないプライベートな情報や家族の状況が分かり、日々の不必要な感情ストレスを軽減できた、心理的距離が近くなった、業務課題の早急な解決につながったなど、さまざまなプラスの効果があった。
 実際にあるリーダーは、よく有休をとるメンバーにその理由を聞けずにいたが、1on1を通じて、両親の介護が必要な状況を知り、リーダーも疑問が解け、配慮が必要なことを理解できたという。
 この時に大切なリーダーとしての姿勢は、リーダーがメンバーに興味・関心をもって、"メンバーが話したいこと"を聴くことだ。リーダーが聞きたいことばかり聞いたり、いかにも忙しく・面倒くさいといった態度で接していたら、いかに時間をとっても逆効果である。

[3]気づきが生まれる会話
 加えて、良質な会話という観点では、リーダーは1on1の時間を使って、"聴く"だけでなく、チームのビジョンを伝え、メンバーの成長や長期的なキャリア構築を後押しするためのフィードバックや新たな気づきが生まれる質問をすることが大切である。第3回で説明したとおり、リーダーの成長支援の行動が、心理的安全性を高める効果があるからだ。
 実際に、今回の調査データの分析から、1on1が有益だと感じているメンバーは、リーダーのリーダーシップ行動の中で、対人関係や課題遂行リーダーシップよりも変革型リーダーシップを高く評価している傾向にあった[図表3]

[図表3]1on1の有効性とリーダーシップの関係性

 もちろん最初は、"1on1の時間をとること"が重要であり、"聴く"ことから始めることが望ましい。リーダーは1on1が慣れてきたら、聴くことから質問するスキルを高め、メンバーの成長支援につながる"良い問い"を投げ掛けていってほしい。

【施策3】チーム単位・個人単位の行動目標の共有とエクスチェンジプログラム

 行動目標の共有も心理的安全性を高める施策として効果的だ。
 6カ月間のプログラム後のアンケート分析において、チーム・個人単位の行動目標の見える化・遵守と心理的安全性はチームで0.46、個人で0.42と高い相関を示した。この結果から、行動目標の見える化・遵守が徹底できたチームほど心理的安全性が高まったといえる。
 今回は、チーム定例会でチーム全体の行動目標を決めるとともに、一人ひとりの個人の行動目標も作成し、チーム内で共有化した。一人ひとりの行動目標の作成に当たっては、メンバー同士がお互いにお礼や要望を言い合う「エクスチェンジプログラム」を導入し、その結果を踏まえて自分がチーム内で守るべき行動指針を作成してもらった。

[1]エクスチェンジプログラムによる本音開示
 エクスチェンジプログラムでは、チームメンバー同士で「1:感謝したいこと・続けてほしいこと」「2:新たにお願いしたいこと」「3:改善してほしいこと」の三つを無記名で交換しあった。このプログラムの前提も、本音で忌憚(きたん)なく相手の成長を願って記載をすることをルールとした。日々机を並べて仕事をしているメンバーでも、普段なかなか思っていることを伝えきれていない。
 そのため、エクスチェンジプログラムをやってみると、さまざまな意見が出てくる。例えば、「挨拶をしてほしい」「ミーティングに遅刻しないでほしい」「貧乏ゆすりをしないでほしい」といった基本的な行動改善の要望もたくさん挙げられた。
 エクスチェンジプログラムは、否定的な側面も書かれるため、フィードバックミーティングの運用や伝え方には注意が必要だが、このようにお互いが普段感じていることを本音で伝え合うことを体験するプログラムとしては有益である。
 フィードバックをもらったメンバーは、新しい自分に気づく第一歩になるはずだ。

[2]心理的安全性を行動規範としてルール化する
 また、特に心理的安全性が大きく向上したチームでは、以下の項目をチーム全体の行動指針として定めていた。

 ・間違いを恐れずに発言する

 ・人の話を最後まで聞く

 ・頭ごなしに人の話を否定しない

 ・どうしたらできるか考え、どうしてもできないときはできないと言う

 ・やりたいことはやりたいという

 ・問題が発生したら、いち早く報告する

 これまで相手の顔色をうかがって発言してきたメンバーにとっては、ミーティングの場などで、"なんでも発言してよい"と言われてもなかなか発言できないが、このようにチームの活動ルールとして、心理的安全性に直接かかわる項目を設定し、チーム全体で遵守する取り組みにすると、"ルールとして定められているのだから、そうしなくては"という意識が働き、定着しやすくなる。
 リクルートは起業家や変革型人材の人材輩出企業としても有名だが、もともとアントレプレナーシップや変革志向が高い人材が入社していることに加え、リクルートの創業者江副浩正氏が掲げた社是「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というメッセージにより"変革すること"をルール化していることが変革型人材の輩出を加速させている。
 「枠をはめる」というと大げさであるが、行動規範をチームの共通ルールとして定め、お互いが見合い、フィードバックする仕組みが大切だ。
 また、前回説明したとおり、人は先が見えないこと・不透明な事柄に対して不安を感じる動物である。心理的安全性に直接かかわらない項目(行動指針)でも、チームで守るべき指針を"見える化"することは、心理的安全性を高める効果がある。

3."見える化"アプリの導入-リーダーがメンバーの状態をきちんと把握すること

 上記のような取り組みを地道に継続することで、心理的安全性を高めることができるはずだ。
 一方で、実際には、全員参加のチーム定例会や、リーダーとメンバーの1on1をルール化しても、働く場所が離れているメンバーがいたり、リーダーの管理スパンが大きく、全員と平等に1on1を実施することが難しいといった事態も起こる。
 今回は、そのような悩みを解決するために、九大TLOでは株式会社HTSライズと共同で部下の状態を"見える化"するスマートフォンアプリを実験的に開発した(名称:Tetre(テトリ)、対象OS:Android、iOS、容量:34MB)。
 本アプリは、毎日2回、部下が自分自身の状態を5段階で回答し、その結果をリーダーが確認し、値が低いメンバーには声を掛けるといったものだ。
 また、リーダーを含むメンバー同士でコミュニケーションをとれる機能も搭載している。具体的には、「飲みに行こう」「今日助けてほしい(SOS)」「ありがとう!」といったことを1クリックで相手に送信できる。今回の組織改革プログラムの中では、感謝カードも導入をしたが、実際にはアプリで手軽にやりたいという参加者の声もあった。また、この相互のやり取りの結果をチームの相関図として確認することも可能である[図表4]

[図表4]部下の状態の見える化アプリ

[注]本アプリについての問い合わせは、以下のメールアドレスで受け付けている。
  一般社団法人チーム力開発研究所 info@team-iq.co.jp
  HTSライズ tetre.info@kkhts.com

 もちろん、心理的安全性を高めるためには対面での直接コミュニケーションが必須である。一方で、働き方も多様化し、すべての人が同じ場所・時間にいる機会はますます少なくなっていく。また、多様なデジタルデバイスの出現により、コミュニケーションツールも高度化している。
 すでに日常生活においては、若手からシニア世代まで、ラインやメッセンジャーいったツールを使ってコミュニケーションをとっていることが実態だ。ビジネスの世界で効果的・効率的にチーム生産性を高めていくためには、時代に応じた方法としてデジタルとアナログを融合させていくことが必要であり、このようなアプリを活用することもお勧めしたい。
 連載の第1回で記載したとおり、筆者は日本企業が元気になるための一つの手段として心理的安全性の確保が重要であると考えている。
 ここで挙げた心理的安全性の取り組み・研究は、まだまだ発展途上であるが少しでも参考にしていただければ幸いである。

青島未佳 あおしま みか
九州大学 人間環境学研究院 学術研究員
株式会社産学連携機構九州(九大TLO) 総合研究部門 アドバイザー

慶應義塾大学環境情報学部卒業・早稲田大学社会科学研究科修士課程修了。日本電信電話株式会社に入社。その後、アクセンチュア株式会社、デロイトトーマツコンサルティング株式会社を経て、2012年1月より現職。人事制度改革、人事業務プロセス改革、人事システム導入支援、コーポレートユニバーシティの立ち上げ支援、グローバル人事戦略など組織・人事領域全般のマネジメントコンサルティングを手掛けるとともに、製造業の業務改革、全社改革プラン策定、営業・マーケティング改革のコンサルティング経験を有する。現職からチームワーク研究を主軸としたコンサルティング・研修を実施。主な著書に『高業績チームはここが違う』(共著、労務行政)