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Point of view [2021.12.10]

第194回 松原光代

自律自走型人材の確保に向け、社会的仕組みをどのように構築していくべきか

松原光代 まつばら みつよ
PwCコンサルティング合同会社 主任研究員
学習院大学経済経営研究所 客員所員

博士(経済学)。東京ガス㈱、東京大学社会科学研究所特任研究員、学習院大学客員教授を経て2017年より現職。専門は人的資源管理、ダイバーシティ・マネジメント、キャリア論。主な著書に『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』(勁草書房、2011年)、『ダイバーシティ経営と人材活用』(東京大学出版会、2017年)(ともに共著)等。

わが国で"「キャリア自律」は可能か"という疑問

 わが国をはじめとする各国は、「D」が付く三つのメガトレンドに直面している※1。一つは"Digitalization"(デジタル技術の活用)である。デジタル技術の進展は知識や技術が非連続的に発展し、企業間競争の激化をもたらすなど、不確実性が一層高まると指摘されている。二つ目は"Demography"(高齢化等人口構造の変化)である。先進国を中心とする高齢化の進展は、高年齢層の雇用問題だけでなく、職業キャリアが延伸することで、一つ目の「D」と相まって労働者が長い職業キャリアの中で何度もその方向性を見直し、新たな能力・スキルを習得する必要が生じると考えられている。三つ目の「D」は"Diversity"(人材の多様化)である。労働者の属性の多様性だけでなく、価値観の多様性も加味した高いレベルの人材マネジメントが企業等で求められているところである。

 こうした経済社会状況を背景に、昨今あらためて企業の中で議論されつつあるのが「キャリア自律」である。「キャリア自律」の定義については先行研究を参照いただくこととして、ここではまず、そのポイントを紹介しておく。
 「キャリア自律」は、変化する社会環境を鑑み、自らのキャリアを構築しその実現に資する能力を開発していくべく個人が行動し、企業等はそれを支援すること──といわれる※2。欧米では、1990年ごろからグローバル化による企業間競争の激化を踏まえ、"企業は個人のエンプロイアビリティ向上を支援すべき"として「キャリア自律」を進めてきた。わが国においても、経済社会の不確実性が高まる中、「キャリア自律」を能力開発の1方針として位置づける企業が増えている現状には得心がいく。

 しかし、ここで疑問が生じる。確かに欧米企業の、顕在能力を踏まえた職務とそれに規定された賃金、勤務地の決定、さらにそれらに変更が生じる場合は個人の意向が重視されるジョブ型雇用システムにおいては、「キャリア自律」は親和性がある。また、これらの国では、その教育システムも労働市場の雇用システムと連携して在学中のインターンシップが重視され、個人の能力、経験を踏まえた採用となっている。
 一方、わが国がキャリア自律を促す主な対象は、大企業の、無期契約で雇用されている大学卒以上のホワイトカラーであり、彼ら・彼女らに適用されてきた教育システムは、その先にある労働市場の雇用システムとの連動性はなく、学生時代に特定の職務能力を高めるものとなっていない。また、それゆえに企業等は担当職務、勤務場所を特定せずに新卒者を採用し、人事権をもって職務の割り当てを行い、当該職務のある勤務場所に配置していくメンバーシップ型雇用システムを運用している。
 企業等の包括的な人事権を基盤に採用・異動が実行され、個人の自己選択が優先されることは少ない雇用システムの下で、学生時代にキャリアを自律的に考え能力開発をする経験もなかった労働者に「キャリア自律」を求めたところで、彼ら・彼女らが自らキャリアを構築し、能力開発をしていくことはできるのだろうか。

「自律自走型人材」の現状と特性

 こうした疑問を明らかにすべく、PwC Japanグループの政策提言活動※3では2020年3月、自らキャリア展望を持ち、その実現に向けた能力開発をしている人材(以下、自律自走型人材)がわが国にどの程度いるのか、自律自走型人材はどのような特性を有しているのかについて、全国3000人の正社員を対象に調査した(「1対N時代の到来に向けたわが国の人材育成の在り方」調査)※4
 その結果、自律自走型人材は全体の27.7%にとどまること[図表1]、自律自走型人材以外の人材は、各年齢層において一定数おり、必ずしも職業キャリアが終盤に向かう壮年以上に多い(すなわち、自律自走型人材は壮年以上に多く見られ、若年・中堅層では比較的少ない)わけではないことが明らかとなった。また、自律自走型人材の特性として、①多忙な就労時間から能力開発のための時間を捻出していること[図表2]、②創造性を刺激する職場に所属していること、③組織の枠を超えた人との関わりが多いこと、④積極的に社会動向の情報を収集する傾向が強いこと──が分かった。
 これらの特性の因果関係は現時点で判明していないが、自律自走型人材の育成には、能力を開発する時間と自分自身の感性を刺激する場が必要であり、その「場」は一組織内に閉じず"Open"であることが重要だといえる。

[図表1]「自律自走型」人材の割合

資料出所:PwC Japanグループ「1対N時代の到来に向けたわが国の人材育成の在り方」調査([図表2]も同じ)

[注]各タイプの定義は次のとおり。

・自律自走型:キャリア展望が明確/ジョブクラフティング(労働者が主体的に自らの仕事を定義し、創意工夫する行動)あり

・組織従事型:キャリア展望が明確/ジョブクラフティングなし

・何とかなる型:キャリア展望が不明瞭/ジョブクラフティングあり

・パラサイト型:キャリア展望が不明瞭/ジョブクラフティングなし

[図表2]タイプ別に見た1日当たりの就労時間と自己啓発等時間(平均)

「自律自走型人材」の育成に必要なこと

 では、どのように自律自走型人材を確保していくのか。それを議論したのがPwC Japanグループ主催による「自律自走型人材を育成するための社会システムとは? ~企業主導型スキルアップから社会主導型スキルアップ(Social-led upskilling)へ~」(2021年11月12日(金)開催)である※5。ここで指摘されたのは、自律自走型人材を育成する仕組みを「社会で」構築しなければ"自己責任"で終わってしまい、結果的にわが国の労働力低下を招く可能性があるということである。そして、同シンポジウムの登壇者が自律自走型人材の確保に必要なこととして挙げたのは、次の3点である。

a.特定の分野のスキル・経験の確保
b.試行錯誤するような経験を通じた職務遂行能力の修得
c.人とのつながり

 これらについて、わが国の教育、雇用システムが実現可能な範囲で変化し、対処していくならば、職業キャリアの前半はメンバーシップ型、後半はジョブ型のハイブリッドが理想となる点も指摘された。すなわち、職業キャリアの前半期に、自分のキャリア展望を構築できるよう組織の枠を超えて多様な経験をする機会を提供し、社内外のネットワークを構築させた上で、職業キャリアの後半期には自ら描いたキャリア展望の実現に向け、その能力開発を自発的に行えるよう企業等が支援していくことが重要だといえる。また、こうした仕組みを確実に運用していくには、そのための法整備等も不可欠である。

 上記a~cの点について対応し、支援していく動きは、既に欧米で進んできている。まさにグローバル規模での社会課題であり、労働市場だけでなく、教育機関、公的機関が連携して対処していくことが期待される。

※本稿は、個人の意見であり、筆者が所属する組織の見解ではない点を申し添えておく。

【本文注】

※1 武石恵美子(2019)「『適材適所』を考える:従業員の自律性を高める異動管理」(法政大学キャリアデザイン学会『生涯学習とキャリアデザイン』Vol.17, No.1, pp.3-19)において指摘されている。

※2 キャリア自律の定義は、個人と企業それぞれの視点から若干の違いがある。個人については、花田光世, 宮地夕紀子, 大木紀子(2003)「キャリア自律の新展開」(東洋経済新報社『一橋ビジネスレビュー』51(1))、企業については、花田光世(2006)「個の自律と人材開発戦略の変化―ESとEAPを統合する支援・啓発パラダイム」(労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』No.557)を参照いただきたい。

※3 https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/corporate-responsibility/policy-proposal.html

※4 調査報告書は下記URLを参照願いたい。
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/human-resource-development201110.html

※5 同シンポジウムにおける議論概要は、12月中旬に、当社ホームページで公表予定。
https://www.pwc.com/jp/ja/seminars/social-led-upskilling.html

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