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Point of view [2021.11.12]

第192回 原田隆之

ハラスメントの心理:無自覚なハラスメントを行う「マイルド・サイコパス」とは

原田隆之 はらだ たかゆき
筑波大学教授 東京大学客員教授 博士(保健学)

専門は、臨床心理学、犯罪心理学、精神保健学。法務省、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て、現職。主な著書に『あなたもきっと依存症』(文春新書)、『子どもを虐待から守る科学』(金剛出版)、『痴漢外来:性犯罪と闘う科学』『サイコパスの真実』『入門 犯罪心理学』(いずれもちくま新書)、『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』(金剛出版)。

ハラスメントへの対応

 職場のパワーハラスメントが問題になって久しい。近年では労働施策総合推進法の改正(いわゆるパワハラ防止法)に加え、男女雇用機会均等法などの関連法規も併せて改正されることで、ハラスメント対策が強化されている。それに併せて、多くの企業や組織でも効果的なハラスメント対策を強化する必要に迫られている。
 とはいえ、法の整備や厳罰化などを進めても、それだけでは十分な効果がないことはこれまでの研究によるエビデンスが示している。企業のハラスメント対策に関しても、せいぜいその分野の専門家を呼んで講演会や勉強会などを開催するのが関の山で、それが本当に功を奏しているのか疑問の余地は大いにある。
 したがって今後、ハラスメントという問題行動に関して、その心理を分析し、その結果を踏まえた科学的な対策を考慮することを併せて進めていく必要があるのではないだろうか。ここでは、臨床心理学、犯罪心理学の知見を基に、ハラスメントの心理について科学的に概説したい。

ハラスメントとサイコパス

 ハラスメントを行う者の心理に関する研究は、世界各国で精力的に進められている。その中で、近年注目を集めているのは「マイルド・サイコパス」「企業内サイコパス」という概念である。
 サイコパスというと、連続殺人鬼などの凶悪犯罪者を思い浮かべる人が多いと思う。しかし、それは映画や小説の中のイメージであって、必ずしも正しくはない。むしろそのようなサイコパスは、極端な例外的存在といってよい。犯罪心理学において、サイコパスとは、四つの因子から成るパーソナリティのスペクトラムであると考えられており、その因子の概要は以下のとおりである。

1.対人因子:対人的な魅力、自己中心性、他者操作性、誇大性、欺瞞(ぎまん)

2.情緒因子:浅薄な情緒性、冷酷性、残忍性、共感性の欠如、不安の欠如

3.ライフスタイル因子:衝動性、長期的な目標の欠如、無責任性

4.反社会性因子:少年非行や犯罪の前歴、規範軽視性

 こうしたさまざまな因子の組み合わせで多様なサイコパス像が浮かび上がるわけだが、これをご覧いただけると分かるように、犯罪に直接関連するのは4の反社会性因子のみである。サイコパスというパーソナリティは、このすべてを満たす必要があるわけではなく、それぞれの因子の組み合わせによるスペクトラムなので、4の反社会性因子を全く満たさなくても、あるいはそれぞれの因子を満たす程度が小さくても、サイコパスと「診断」されることがある。
 先に述べた「マイルド・サイコパス」がまさにそれに当たるものであり、際立った犯罪性や反社会性は見られないが、対人面や感情面、あるいはそのライフスタイルにおいて問題を有する者が当てはまる。そして、その特性ゆえに程度の大小はあっても、対人的な軋轢(あつれき)を生んだり、周囲の人々や組織を困らせたりすることは少なくない。
 事実、研究ではどの社会でも人口の1%から数%くらいはサイコパスが存在するといわれており、日本の人口に当てはめると数百万人のサイコパスがいる計算になる。従業人100人程度の企業では2~3人のサイコパスがいてもおかしくはない。イギリスの研究では、「マイルド・サイコパス」によるハラスメントに基づく社会的損失は、年間35億ポンド(約537億円)と見積もられている。また、オーストラリアの研究では、会社に「マイルド・サイコパス」がいない場合のハラスメント発生率が54%であるのに対し、「マイルド・サイコパス」がいた場合はなんと93%に上るという。さらに、「マイルド・サイコパス」上司がいる職場では、メンタルヘルス問題、職場への満足感、モチベーションの低下、離職率に有意な影響を及ぼすことが明らかになっている。

サイコパスとリーダーシップ

 もう一つ注意するべきことは、サイコパスにはネガティブな面ばかりでなく、ポジティブな面もあるということである。サイコパスの四つの因子をもう一度見ると、対人的な魅力、誇大性(自分を大きく見せる)、不安の欠如(物事を恐れずに行動する)などは、実はリーダーシップに必要なパーソナリティと重複するところがある。こうした面が特に顕著なサイコパスは、「成功したサイコパス」と呼ばれることもあり、企業の経営者、政治家、外科医、研究者、アーティストなどに多いとされている。例えば、ある研究によると、企業の上級管理職におけるサイコパスの割合は、一般社員の数倍程度大きかったという。
 したがって、ここで言えることは、サイコパス特性を十分にチェックし、その良い面を伸ばせば企業にとってプラスになる一方で、悪い面が影響すればハラスメントはもとより、企業内の不正行為などにつながるおそれもあるということである。

サイコパス・チェック

 われわれの研究室では、企業内の「マイルド・サイコパス」特性をチェックする診断システムを開発した。それを適切に用いることによって、従業員の「マイルド・サイコパス」のチェックだけでなく、どの面を伸ばし、どの面に注意を払うべきかが分かるようになっている。また、「マイルド・サイコパス」特性は、それだけで問題になるものではなく、環境との相互作用が重要になってくるので、どのような部署や職場環境がプラスになるのか、マイナスになるかということも判断できる。
 これはほんの一例であるが、企業内におけるハラスメントや不正の防止、人事管理などにおいては、心理学をはじめとする科学的な知識を活用することが今後一層重要になってくることは間違いないだろう。

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