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Point of view [2021.10.08]

第190回 山口真一

ネット炎上――人事として押さえておくべきこと

山口真一 やまぐち しんいち
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授

1986年生まれ。博士(経済学)。専門は計量経済学、ネットメディア論、情報経済論等。NHKや日本経済新聞等のメディアに多数出演・掲載。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『ネット炎上の研究』(共著・勁草書房)等がある。他に、東京大学客員連携研究員、シエンプレ株式会社顧問、一般社団法人日本リスクコミュニケーション協会理事等を務める。

1日4回発生しているネット炎上

 SNSが普及して、誰もが自由に発信できる「人類総メディア時代」が到来した。人々の発信はさまざまな経済効果も生み出し、企業はSNSを積極的に活用することで、新規顧客の増加や既存顧客のリピート率の向上を実感している。実際、私がグーグル合同会社と共にネットの口コミの経済効果を分析したところ、年間1兆円以上の消費押し上げ効果があることが分かった。
 しかしそれに伴い、新たなリスク―ネット炎上―が顕在化している。ネット炎上とは、ある人や企業の行為・発言・書き込みに対して、ネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われることを指す。
 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所の発表によると、2020年のネット炎上発生件数は1415件(内422件が法人等)だった。1年は365日しかないため、1日当たり約4回発生している計算になる。今日もどこかで誰かが燃えている、これが炎上の現実なのだ。
 さらにこれは、コロナ禍において急増していた。具体的には、2020年4月のネット炎上発生件数は、前年同月比で3.4倍にもなっていた[図表1]。このようにコロナ禍において増加した理由は二つある。一つは、自粛生活によってSNS利用時間が増えたこと。もう一つは、社会全体が不安に包まれたことだ。withコロナ時代には、特にネット炎上対策は必須といえるだろう。

[図表1]コロナ禍において増える炎上件数

資料出所:シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所「デジタル・クライシス白書2021」より筆者作成

株価の下落・倒産――「炎上」の大きなリスク

 ひとたび企業が炎上に巻き込まれると、対応コストの発生、イメージダウン等、さまざまな影響がもたらされ、大規模炎上では株価が下落するケースも少なくない。
 某家電量販店が、認知症患者と不要な高額のサポート契約を結び、解約しようとした家族に20万円もの解約料を請求したことがネット上で広まり大炎上した件では、多くのネットメディア・マスメディアで大々的に取り上げられた結果、イメージダウンにつながっただけでなく、株価が一時前日比18%安と急落したのである。
 慶應義塾大学教授の田中辰雄氏の研究によると、上場企業の炎上事例77ケース(2012~2015年)について分析した結果、中規模以上の炎上が影響した株価の下落割合(平均)は0.7%程度であり、大規模炎上に限ると最大で5%程度の下落が見られたとのことである。-0.7%というと大きくなさそうであるが、実は航空機事故や化学工場の爆発事故による株価の下落幅と同程度の数字である[図表2]

[図表2]炎上と株価の関係

資料出所:慶應義塾大学教授・田中辰雄氏の研究結果(炎上の株価への影響:日本のケース)より筆者作成

 さらに、そば屋のアルバイト店員が食器洗い機に入った写真をTwitterにアップした件では、「不潔だ」とネット上で大量の非難を浴びだけでなく、常連客からも苦言を呈された結果、なんと当該そば屋は閉店に追い込まれた上に破産してしまったのである。このように、従業員が何かをしてそれをTwitterに投稿した結果、多大な被害がもたらされることも少なくない。企業のアカウントだけでなく、従業員も個人のTwitterを利用することで、いわば「公人」と言ってもよい状態になることに留意する必要がある。

炎上をどう予防するか

 では、こうした炎上をどのように予防すればよいのか。その方法は次の五つにまとめられる。

1.基礎知識の共有
 ネットについて前提となる知識を共有しておくことが大切である。例えば、私の以前の研究では、「年収が高い」「主任・係長クラス以上」「男性」といった属性を持っている人は炎上に書き込みやすい傾向にあることが分かっている。若い人に留まらず、役職者まで含め、幅広くネットの使い方・リテラシーに関する研修を徹底することが重要である。

2.予防の仕組みをつくる
 企業のSNSアカウントを複数人で運用したり、1端末1アカウントにしたりすることで、感情的な内容や個人的な内容が投稿されるのをあらかじめ防ぐことが重要である。また、ある程度規模の大きい企業であれば、自動検知システムを導入して炎上を迅速に検知することも適切な対応に欠かせない。

3.発信内容の確認
 著作権を侵害するような法律に抵触しかねない内容は、もちろん発信しないように注意する必要がある。
 また、昨今頻繁に炎上しているテーマとして、ジェンダー関係がある。このほか、政治、安全保障、ファンの多いコンテンツやスポーツ、社会保障等、炎上しやすいセンシティブな話題を扱う時は細心の注意を払う必要がある。

4.発信タイミングの注意
 前述したように、災害時・パンデミック時のように社会全体が不安に包まれているときは炎上しやすい。そのような場合には細心の注意を払って発信することが大切である。

5.ガイドライン・対応マニュアルを制定する
 非正規も含めた従業員による炎上と、それに伴う企業のイメージダウンが後を絶たない。ネットでの発信の決まりごとや、いざ炎上した時の対応について、一律のガイドラインや対応マニュアルを作成・共有しておく。
 また、個人的なSNS利用についても、プロフィールに社名を出したり、社内のことをつぶやいたりする例が少なくない。適切なルールを設け、何をしてはいけないのか、もしルールに違反したらどのような処分となるのか、といった点を共有しておくことが大切である。

 特に人事として押さえておくべきなのは1と5だろう。繰り返しになるが、年齢や職位問わず、誰でもネット炎上の加害者にも被害者にもなり得る。従業員全員への研修、ガイドラインや対応マニュアルの作成と通知、定期的なSNSルールに関するメッセージの発信、他社の炎上事例の共有等を通じて、会社全体にネット炎上についての知識を定着させて予防する必要がある。

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