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Point of view [2021.07.26]

第185回 川内正直

「従業員エンゲージメント」こそが、持続的成長のキーファクター

川内正直 かわうち まさなお
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役

2003年早稲田大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションへ入社。採用、育成、人事制度構築、経営ビジョン策定・浸透プロジェクト推進と、一貫して組織課題の解決に向けたコンサルティング業務に従事。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、新規拠点ならびに新規事業部門の立ち上げなども担当。2010年に大手企業向けコンサルティング事業の執行役に就任し、2018年に取締役就任。現在は、組織開発本部にてコンサルティング・クラウド部門を統括。

従業員エンゲージメントを取り巻く環境変化

 近年、日本企業を取り巻く環境は急速に変化している。少子高齢化に伴う労働力人口の減少をはじめ、商品・サービスのソフト化、短サイクル化に加えて、ワークモチベーションの多様化や人材の流動化が進行していることは、言うまでもないだろう。このような環境下においては、新卒一括採用による終身雇用、年功序列賃金といった日本型雇用では、従業員を束ねられなくなっており、企業の労働市場適応が至上命題になっている。
 加えて、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して投資を行う"ESG投資"が活発化している中で、企業に対する「非財務価値」の開示要請が高まっている。中でも、これまで業績との関連性を示すことが難しいとされていた「人的資本」への注目は非常に高い。既に海外では、2019年1月に国際標準化機構(ISO)が人事・組織に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」を公表。さらに2020年8月には、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して「人的資本の情報開示」の義務化を発表(適用開始は同年11月9日)するなど、先行して取り組みが進んでおり、近いうちに日本にもこの流れはやってくると見ている。
 日本では、2020年9月に経済産業省より「人材版伊藤レポート」が公開された。本レポートでは、持続的な企業価値の向上のためには、経営戦略と人材戦略の連動が不可欠であると明記され、人材戦略の具体的内容の一つとして「従業員エンゲージメント」が掲げられている。また、新型コロナウイルス感染症拡大によるテレワークの普及に伴い組織の状態が見えにくくなった中で、多くの企業において「従業員エンゲージメント」の可視化ニーズが急速に顕在化してきている。つまり、外的要請がきっかけではあったものの、企業が本当の意味で「従業員エンゲージメント」に向き合い始めたタイミングに差し掛かっているといえるだろう。

従業員エンゲージメントの本質とは

 「従業員エンゲージメント」に注目が集まる一方で、その捉え方は企業によってバラつきがあると感じている。特に、これまでの延長線上で「従業員満足度」と同義で捉えられていることが多い。「従業員満足度」とは、その名のとおり「従業員の満足度を向上する」ことに目的が置かれるため、従業員からの待遇面における要請に対して、企業が一方的に応えるという構図になりやすい[図表1]。しかし、ワークモチベーションの多様化が進む中で、すべてのニーズに応えることはほぼ不可能であり、一部の要請のみに応えることで、逆に組織の一体感が失われるなど、組織状態が悪化するケースも散見される。要するに、「One for All , All for One」を実現したいはずが、企業側は表面上の「for One(=従業員の欲求充足)」への対応で満足してしまい、結果的に「for All(=企業の成果極大化)」が達成されないことが多いのである。

[図表1]従業員満足度と従業員エンゲージメントとの違い

 当社では、「従業員エンゲージメントとは、企業と従業員の相互理解、相思相愛度合いである」と定義している。実はこの「従業員エンゲージメント」は、近年日本で声高に叫ばれている「イノベーション」「ビジネスモデル変革」「デジタルトランスフォーメーション」とも大いに関係している。読者の中には、自社での変革の取り組みがなかなかうまくいかないと感じている方も多いのではないだろうか。元来、人は変化を好まない生き物である。そのため、変化の必要性を頭の中で理解していたとしても、従業員自身が「自分事化」しなければ、主体的な行動が生まれずに、結局元に戻ってしまう。まさに「仏作って魂入れず」ということわざが示しているとおり、さまざまな施策の成功の可否は、計画の緻密さや制度の整合性ではなく、「自分自身が経営陣と一緒に創り上げる」という「エンゲージメント」を高めることができるかどうかで決まるのである。
 実際に、慶應義塾大学 大学院経営管理研究科/ビジネス・スクール 岩本研究室との共同研究によって、従業員エンゲージメントと営業利益率・労働生産性に相関性があることが証明された[図表2]。企業が持続的に成長していくためには、「for One」の満足度向上だけではなく、「for All」に向けた統合が非常に重要であり、企業はまずこの前提を意識しなければならない。

[図表2]従業員エンゲージメントの向上は、営業利益率、労働生産性にプラスの影響をもたらす

※上図データはリンクアンドモチベーションと、慶應義塾大学ビジネス・スクール岩本研究室の
 共同研究成果です。
※労働生産性:「従業員に支払われる給与1円あたりの正常収益額(EBITDA)」としています。
 調査対象:上場企業66社/研究期間:2018年5月~7月/調査方法:当社でエンプロイー
 エンゲージメントサーベイを実施した企業のうち、有価証券報告書が公開されている企業
 66社から算出

従業員エンゲージメントの向上には何が必要か

 では、従業員エンゲージメント向上に向けて、企業は具体的に何に取り組むべきなのか。重要なことは「診断」と「変革」のステップである。
 まずは、組織のどこにどのような課題があるのかを把握するために「診断」を行う。当社のサーベイ項目は、従業員エンゲージメントに大きく影響を与えている要素を「会社領域」「直属上司」「職場状況」に分類し、組織の課題を網羅的に把握できるようになっている。さらに、「満足度」を測るだけではなく、「期待度」も測定することで、従業員が求めることと満足度のギャップから優先的に対処すべき課題を明らかにしている。このようにして抽出された組織課題は、必ず現場に共有することが大切である。経営陣だけではなく、従業員全員がサーベイと向き合うことで、変革に向けた機運を高めることができる。
 課題が明確になったら、いよいよ変革フェーズに入る。診断はあくまでも手段に過ぎず、抽出された課題を基に改善策を実行し、再測定することで効果があったかどうかを検証することが重要になる。ただし、一度組織状態が良くなったらそれで終わりかといえば、そうではない。組織の構成員が入れ替わる度に組織の課題も変わるため、継続的にPDCAを回し続けることが重要である。当社では、創業以来8010社、203万人の組織診断データを蓄積しているが、顧客のサーベイ結果を分析してみると、最も期待度と満足度のギャップが大きい項目は「階層間の意思疎通」であることが分かった[図表3]。つまり、経営層と従業員の意思疎通が図れていないと感じることで従業員エンゲージメントが低くなってしまっているケースが多いということだ。経営層と従業員の意思疎通を図るには、両者の「結節点」となる「管理職」が機能することが重要である。従業員エンゲージメントを高めるために、まずは管理職育成から見直してみるのも一つの方法といえよう。

[図表3]企業が最も多く抱えている組織課題(上位三つ)

 また、近年は「診断」「変革」のサイクルを回すことに加えて、その結果を外部に「公表」することも重視されている。2021年6月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、「人的資本情報の見える化の推進」が項目として掲げられた。自社のエンゲージメント状態の開示によって、労働市場では応募者の入社企業選定、資本市場では投資先企業選定、商品市場では購入先選定に活用されることから、企業の3市場適応がさらに高まっていくことになる。
 この環境変化の中で、人事部門は「人材の管理者」ではなく、「診断」「変革」「公表」といった企業経営の新たなバリューサイクルを回し、従業員エンゲージメントを高める「価値創造の主体者」となることが求められている。読者の中には、組織改善のためにさまざまな手を打っているにもかかわらず、なかなか成果が出ないと頭を抱えている方も多いのではないだろうか。大きくジャンプするためには十分な助走期間が必要なように、組織変革を行うためには一定のリードタイムが必要である。 従業員エンゲージメント向上への取り組みこそが、サステナブルな企業成長への近道となると信じて、焦らずに活動し続けることを切に願う。私自身も従業員エンゲージメントの本質を正しく理解し、改善し続ける企業を1社でも多く生み出していきたい。

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